間章

第62話 お手紙

 お嬢様の部屋がノックされました。


 今日は休日の、午前中。


 私はベットの上で、お嬢様に押し倒され――絶体絶命のピンチなのです!


「リッカ」


 私の名前を呼び、顔が近づいてきます。


 私は恐れおおくも――お嬢様の顔を両手で押さえつけました。


「これは……どういう意味かしら?」

「お、お客様が来られましたから」

「そんなの、気にする必要なんてないわ。リッカ」

「気にするべきですから、お嬢様!」

「何故? 私とリッカの愛の時間を邪魔する非常識な奴よ、気にする必要などないわ」

「お嬢様のほうが、非常識ですから!」

「え?」


 力が弱まったため、手を離しますと――お嬢様の悲しげな顔を見てしまいました。


 心が痛みます!


 しかし、ここで負けるわけにはいかないのです……。


 何故なら、お客様を待たせるわけにはいかないのですから。


 私はゆっくりとお嬢様から離れ、ベットから抜け出します。


「……リッカ、私から逃げると言うの?」


 こちらの方へと首を動かし、恨み混じりの顔となっています。

 

「お、お客様を出迎えるだけですから!」


 逃げるように玄関まで向かい、ドアを開けました。


「朝早くすまないね、リッカくん」


 寮長のセシリア先輩がにこやかな顔で手を挙げました。とっても爽やかな笑顔です。


「いえいえ、そんなことありませんから!」


 私は慌てて、手をパタパタと振りました。


「リッカ、まだなの!」


 お嬢様が急かしてきます。ここからでは壁により、お姿は見えませんが――ベットの上で不機嫌な顔となっているに違いありません。


「ふふふ、君のお姫様を待たせるわけにはいかないね」


 そう言って、セシリア先輩は格好良くウィンクを決めました。流石は、ノース寮の王子様と呼ばれるだけのことはあります。


「これを、アリーシャくんに渡してくれるかな?」


 セシリア先輩の手から便箋が渡されました。てっきり、ミオさんからだと思ったのですが――。


「アリーシャくんの兄君からだよ」

「え」


 受け取った便箋を裏返ししますと、アレックス――と書かれています。


「ふふふ、嬉しそうだね。それでは、僕はここで失礼とするよ」

「わざわざ届けていただき、ありがとうございます!」


 私は頭を下げ、感謝の気持ちを伝えます。


 セシリア先輩は笑顔で手を振り、部屋から出ていかれました。


 私はすぐに走って、お嬢様の所へ向かいます。


「お、お嬢様、朗報でありますよ!」

「お兄様から手紙がきたんでしょ? 聞こえていたわよ」


 何故か、お嬢様は不機嫌なままです。


 差し出された便箋を受け取りますと、中にある手紙を取り出し、確認されました。


 紙は一枚だけです。


 しかし、そこに大量の愛が詰まっていることは間違いありません!


 読み終えると、お嬢様は何故かため息を吐かれました。


 アレックス様のことが恋しくなり、ついつい口から息が漏れてしまったのでしょうか?


 お嬢様――可愛すぎます!


「な、内容は、なんだったんですか?」


 興奮する感情を押さえながら、私は尋ねました。


「内容?」


 お嬢様は手紙を放り投げました。


「糞みたいな内容ね」

「え?」


 あまりの衝撃な言葉に、身体が一瞬止まってしまいました。


「今日の3時に――小さなパーティがあるから、私も参加しろって話よ。ふざけているわ」

「そ、そうでしょうか?」

「それと、リッカを必ず同行させるように書いてある。連れてこなかった場合の、脅し文句まであるわ」

「そ、そうですよね……私みたいなのと、華やかなパーティには参加したくないですよね」


 私は笑顔とガッツポーズを作ります。


「大丈夫です。私はここでお待ちしておりますから――お嬢様だけでも楽しんできてください!」


 その言葉を聞き、お嬢様はため息を吐かれます。ベットの上から離れ、私の前に立ちますと急に抱き締めてきました。


「リッカ――また、勘違いしているわ」


 耳元でお嬢様の息があたり、身震いしてしまいました。


「か、勘違いですか?」

「そう――とんでもない、勘違いを」


 お嬢様の唇が耳たぶに触れたかと思うと、舐められました。つい――変な声が漏れてしまったため、口を手で押さえます。


「私がリッカを連れて行きたくない理由は――あなたがたくさんの人を誘惑するからよ」

「え? お、仰っている意味がよく分かりません」

「何故分からないのかが私には分からないわ、リッカ。あなたは魅力的過ぎて、そこに存在しているだけで人を誑かす悪い子よ。だから、私はいつだって不安になってしまうの。私がリッカを地下室に閉じ込めたくなるのも仕方がないわ」

「……そう思うのなんて、お嬢様だけですから」

「そんなことはないわ。――でも、リッカが私を誘惑していることは理解してくれたのね」


 お嬢様は私のお尻を揉み始めました!


「お、お嬢様、何をする気ですか!?」

「そんなの決まっているわ、リッカ。今からエッチなことをするの。だって――あなたが、私を誘惑するからよ」

「パ、パーティに遅刻してしまいますから!」

「大丈夫よ、まだまだ時間があるもの。それに――遅刻したって構わないわ」

「あ、朝ごはんが食べられなくなってしまいますから!」

「それよりも、リッカが食べたいの、私は――」


 そう言って――お嬢様は私を綺麗に召し上がりました。


 ちゃんちゃん!

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