第60話 5人の時間
私たちは、5人で食卓に座りました。このメンバーでの食事は初めてのため、いつもより美味しく感じられると思います!
「リッカ」
お嬢様から、名前を呼ばれました。
「さっきの話を聞いて、ちゃんと危機感は持ってくれたかしら?」
「え?」
意味を理解できず、スプーンが私の手前で止まり――固まってしまいました。私の小さい脳みそをフル回転させていますが、なかなか回答がでてきません。
「リッカ――何故なの?」
隣の席に座っているお嬢様は、私を見て不安そうな顔をなされました。
「そんなに可愛い顔をして、危機感がないだなんて信じられないわ。私がシオン様だったなら、今すぐあなたを押し倒し、地下室に監禁することとなっているわ」
「そんなの、あんただけだから大丈夫よ」
ニーナ様の言葉を聞き、お嬢様は顔をしかめます。
「何を言っているの? そんなこと――ありえないわ」
「そんなことを言うあんたのほうが、ありえないから」
対面で座っているお二人は、目と目を合わせると火花が散りました。
私の目の前に座っているネーヴェさんが、ご自身の隣に座られているご主人さまの肩を叩き、何とか落ち着けようとしてくれています。
「お、落ち着いてくださいね、お嬢様」
私もお嬢様の服の裾を掴み、何とか沈静していただけるようお願いいたしました。
「……リッカが、キスをしてくれたら、落ち着くと思うわ」
「え?」
「余計に酷くなる未来しか思いつかないわね」
確かに、私もそう思います!
「とにかく、あんたのお嬢様は、シオン様には気をつけろってことを言いたいのよ」
「そうなんですか?」
「そう、だからあの話をリッカのためにしたのよ」
あれは――ネネさんのためだったかと思うのですが?
「私がいないときに、シオン様を見かけたら全力で逃げだすのよ、リッカ」
それは、流石に――。
「ひどい話ね。まるで、魔物扱いじゃない」
「魔物のほうが、まだましだと思うわ」
「本当、あんたの発言にはヒヤッとさせられるわね」
「……目隠れが生贄になったのだから、しばらくは大丈夫だろうけれど、やはり心配だわ」
お嬢様は顎を指で掴み、ぽつりと呟かれました。
「怖いことは言わないで欲しいんすけど!?」
ネーヴェさんの隣に座っているネネさんは、抗議の声を上げました。
「とりあえず、恐ろしい話はここまでにしないっすか? 楽しい話をするっすよ。楽しい話を!」
ネネさんはお盆の上にスプーンを置かれると、一度軽く手を叩きました。
「代わりに、あんたが面白い話でもしてくれるってこと?」
「それは、とんだ無茶ぶりっすよ!」
「そういえば、ネネさんの住むウェスト寮ってどんな感じなんですか?」
「えーと、そうっすね。……とにかく、外と中も白って感じっす」
「何か、抽象的な言い方ね」
「し、仕方ないっす。急に振られたらこんなものっすよ」
「す、すみません」
どうやら、別の話題にしたほうが良かったみたいです。
「いやいや、リッカさんが謝ることじゃないっすから!」
「そう言っていただけると助かります」
「本当、気にしないでくださいっす。下手したらアリーシャさんに殺されるっすから」
お嬢様は腕を組まれますと、何故か満足気に一度頷かれました。
「目隠れはよく分かっているのね。まさに、その通りよ。だから気をつけるといいわ。リッカを傷つけ困らせるものを――私は容赦しないから」
「何をドヤ顔で言っているのよ。見た目に反して子供っぽいわね、あんたは」
「は? 一体、何を言って――」
「そうですよ、お嬢様。お友達に向かって、そのようなことを言う人は子供だと思います」
私は、お姉さんらしく――恐れ多くもお嬢様を叱ることとしました。なぜなら、お嬢様にお友達ができるチャンスなのであります。ここは、年上である私が、心を鬼にしなければならないのです!
「……リッカ、私ではなくニーナの味方をするの?」
お嬢様は、ショックを受けたような顔をなされました。
私はその顔を見て、怯みそうになります。
「こ、これも、お嬢様のためですから」
「私だって、リッカのために言ったのよ?」
「そ、それでも、駄目ですから。あのようなことは言ってはいけません」
私は人差し指を立て、お嬢様の方に向けます。
お嬢様はムスッとした顔を為されましたが――納得していただけたのか、口を閉じました。
「何だかリッカさん、年上みたいっすね」
そう言って、ネネさんは笑われました。
え?
「だって、私――年上ですから」
何故か、皆さん――3人とも、驚かれた顔を為されました。
その顔になる理由が、私には分かりません。
「あ、あんた、いくつなの?」
「20ですけど……」
「え!?」
驚かれた声が上がります。
私は首を傾げてしまいました。
「う、嘘でしょ?」
何が、嘘なのでしょうか?
「あんた、本当に20なの?」
「は、はい。今年で20となりました」
ニーナ様が、お嬢様の方へ視線を向けます。
「本当よ」
お嬢様は、不機嫌そうに呟かれました。
「い、意外としっかりしているところもあるから、13ぐらいだろうとは思っていたけど……」
「私は、10ぐらいの幼女かと」
「お、オラは12ぐらいかと――思ってたっす。だ、だから、小さいのに偉いなぁーと思ってたっす!」
「まぁ、あんたも人のことは言えないとは思うけど」
「そ、そんなことはないっす! さすがにリッカさんほどではないっすよ!」
……。
「じ、冗談ですよね?」
私は、笑顔で尋ねます。
3人とも、私から視線を逸らしました。
ど、どうやら、冗談ではなかったみたいです……。
なんだか、泣きたくなってきました!
「それにしても、まさかネーヴェより年上だったとわね」
「え? ネーヴェさんっておいくつなんですか?」
「もうすぐ、15となります」
「え!?」
私とネネさんは同時に声を上げてしまいました。
てっきり、私より年上かと思っていたのですが……。
「これでも、出会った3年前は私より背が低くてかなり幼かったけどね」
「い、今は、何㎝なんですか?」
「170です」
と、ネーヴェさんが答えられました。
「う、うらやましいです」
つい、本音が漏れてしまいます。
「私としましては――リッカさんの方が、うらやまですけどね」
ポツリと、ネーヴェさんは呟かれました。
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