第58話 バカップル?
王女様がグラウンドから出ると、他の皆さまもぞろぞろとこの場を後にしました。
ニーナ様は、固まって動けなくなったネネ様の身体を揺らし、金縛りを解除されます。
「まったく、なに固まってんのよ、あんたは。本当に情けないわね。もっと、しっかりしなさい」
「い、いや、あれは仕方がないと思うっすよ!」
私もそう思います。あれは仕方がないことかと!
「目隠れも、災難ね」
お嬢様は、ぽつりと呟かれました。
目隠れ? あぁ、なるほど。ネネ様のことですね! お嬢様から直々にあだ名をいただけるとは――少し、焼いてしまいます。
「何故、災難なんですか?」
私の質問に、お嬢様は少し困った顔をなされました。しかし、それはほんの一瞬だけです。
「……シオン様に目をつけられると、面倒くさいことになるのよ。あの人が手を出した女性は100人以上だと言われている」
「手を出した――ですか?」
「押し倒して、エッチしたってことよ」
そのあまりにも衝撃な情報に――私の頭はパンクしそうになりました。
「そして、愛人は10人以上。それでも、あの人は女漁りを止めないでしょうね」
「え、えっと――それは、何故なのでしょうか? 愛しているんですよね?」
愛しているから、エッチなことをしたわけですから。
「そうね、あの人は言ったわ。全員、心から愛したと」
それは――凄い、話だと思いました。
私は、誰かひとり以上を愛せる自身がありません。それが、器の違いなのでしょうか? では、器の大きいお嬢様も、同じようにたくさんの人を愛すことができるのでしょう。
お嬢様が――私以外の誰かと特別なことをする姿を想像してしまい、とても嫌な気持ちとなりました。いつの間に、私はこんなにも我儘な人間となってしまったのでしょうか?
「お嬢様は――王女様とは、違うのですか?」
「そんなの当たり前よ、リッカ」
不愉快そうに言葉を吐かれます。
「では――お嬢様は、私以外を愛さないでいてくれますか?」
お嬢様が驚いた顔で、私をガン見します。その表情で、私がとんでもない馬鹿なことを言ってしまったことに気づきました。
「す、すみません。今のは忘れてください」
恥ずかしさのあまり、お嬢様の顔を見ていられなくなります。
顔をうつむかせてすぐ――お嬢様から抱きしめられ、驚きの声が出てしまいました。先程と同じように、強く抱きしめられます。恥ずかしさ以上に、嬉しいという感情が私の脳を震わせました。
「忘れられるわけがないわ、リッカ。あなたは本当に――私を狂わせる。そんな上目遣いで私を見て、そんな甘い言葉で私を惑わせる――そんなリッカには、お仕置きが必要ね、今すぐに」
何故ですか!?
「ああ、もう――いい加減にしなさいよ。このバカップルがぁ!」
ニーナ様は、私とお嬢様を引き剥がします。
私はお嬢様と離れ、ほっとしました。だって、これ以上抱きしめられたら、何だか変な気分になってしまいそうですから。
「何、嫉妬なの? リッカは絶対に渡さないわよ」
「違うわよ! 同じSランクのチームメンバーとして、恥ずかしい真似は止めて欲しいだけよ。あなたのせいで、私の品位まで落ちかねないわ」
「恥ずかしい? 意味が分からないわ。今のどこに、恥ずかしい要素があったと言うのかしら?」
「分からなくてもいいから、その続きは部屋でしなさい」
「確かにそうね、リッカ。今すぐ、部屋に戻りましょう」
「お、落ち着いてくださいね、お嬢様。今はまだ、お昼前ですから!」
「我慢できないわ、リッカ」
「大丈夫です、お嬢様なら我慢できるはずですから!」
私は、お嬢様を奮い立たせるため、ガッツポーズをします。
「無理よ、リッカ」
「少しぐらい、悩んでから言ってくださいね!」
ニーナ様が、ため息を吐かれます。
「あんまりしつこいと嫌われるわよ、アリーシャ」
その言葉で、お嬢様は苦い顔となり――私へと伸ばされた手の動きが止まります。
「……そんなこと、ないわよね? リッカ」
私がお嬢様を嫌いになることなどありえません。ありえませんが――。
「お、落ち着いてくださると――助かります」
お嬢様は悩まれたあと、手を引っ込めました。
「偉かったわね、アリーシャ」
「あなたに言われても、何も嬉しくないわ」
「は? 本当に、失礼なやつね。あんたは」
ニーナ様から睨まれましても、お嬢様は気に留めた風はありません。
「あのー、ちょっと聞きたいんすけど……シオン様って、どんな人なんすか? あの人の話、あんまり聞いたことないんすけど?」
「まぁ、一言で言えば――屑ね」
と、お嬢様は口にしました。
「ぶ、ぶっちゃけるわね」
お嬢様の言葉で、ニーナ様は顔を引き攣らせました。
「本人が言っていることよ。だから、王位継承権を剥奪された」
私だけでなく、ネネ様も驚かれた顔をなさりました。ニーナ様は知っていたのか、表情は特に変わりません。
「あまり公にはなっていないかもしれないけれど、特に隠された話でもないし、本人はそのことを自慢気に吹聴しているわ」
「な、なんでそんなことになったんすか?」
お嬢様はしばらく思案したあと、口を開きました。
「そうね――確かに。あなたも、他人事ではなくなったものね」
「なんかその言い方、怖いんすけど!?」
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