第57話 王女様と――

「あなた達が、Sランクなのですね」


 そう言って、王女様はニーナ様たちの方へ視線を向けます。


 ニーナ様が一歩前に出ると、ネーヴェさんは頭を下げ後ろに下がりました。


「ニーナです、シオン様」

「ええ、覚えておりますよ」


 そう言って、王女様はネネ様の方へ視線を向けます。


「お、オラは、その――ネネっす。王女様」


 ネネ様は王女様に見つめられ"あわあわ"としております。気持ち――分かりますよ、ネネ様!


「まさか……リッカさん以外に、まだこのような幼子がいるとは――」


 王女様はぽつりと呟かれた後、じっと眺められます。そのため、ネネ様はさらにパニック状態となり、私まで"はらはらどきどき"してきました。


 何とも言えない空気が流れました。


 そして、その空気を破るかのように王女様が歩き出し――ネネ様の前で足を止められます。


「お、オラ、もしかして――何かやらかしたっすかね?」

「まさか、その逆ですよ――ネネさん。あなたは本当に素晴らしい。まさかこの私が、あなたのような逸材に今まで気づかなかったとは――おそらくそれは、リッカさんのせいですね」


 そう言って、王女様は優しくネネ様の肩に両手を置かれました。


 それにしても――まさか、私のせいだったとは! これは、謝るべきなのでしょうか?


「リッカさんの影で埋もれていた才能が、今――私の目の前で花開いた訳ですね。実に素晴らしいと思います。やはり、データ上で全てを把握したつもりになっていては駄目ですね。自分の目で見なければ分からないものもあると――この年になって、思い知らされました」

「あ――いや、オラは別に、そこまでの才能はないかと思うっすよ。ただの平凡な魔法使いっす」

「そんなこと――どうでもいいのです」

「ど、どうでもいいんすか?」

「そう、そんなことはどうでもいいのです。それより、ネネさんには――恋人がいますか?」

「恋人っすか? そんなのいるわけないっすよ。オラみたいな女、欲しがる殿方なんていないっす」

「あら? 相手が殿方だけだなんて――あまりにも視野が狭すぎですよ、ネネさん」


 そう言って、王女様はネネ様の首すじにゆっくりと指を這わせました。


「ど、どういう意味っすか?」

「まぁ、本当に分からないのですか?」


 王女様の指は、ネネ様の下唇の上で止まり――軽く押し付けました。

 

「わ、分からないっす」


 ネネ様の言葉を聞き、王女様は微笑まれます。


「まぁ、いいでしょう。それより――ネネさんは何故、目を隠されているのですか?」

「そ、それは――」

「私には分かります。例え、隠されていようとも――その目が如何に美しいかを」

「そ、そんなことありえないっす!」


 ネネ様は声を荒げました。そして、一歩後ろに下がられ――顔が下に向いてしまいます。


 私は驚いてしまいましたが、王女様は特に気にされた風はありません。


「す、すみませんっす……急に、大声をあげて」

「いいえ、構いませんよ。それより、どうか――顔を上げてください」


 ネネ様は少し躊躇しながらも、顔をお上げになりました。

 

「何故、ありえないと思うのですか?」

「み、皆に――言われたっす。お前の目は、呪われていると」

「魔眼――ですね」

「そうっす――オラの目は、呪われているっす」

「違いますよ、ネネさん。それは、神からのギフトなのです」

「……ギフト?」

「そう、ギフトです。今――あなたは、それを制御できる力があるのに、瞼を魔法の糸で塞ぎ、封印しています。目を閉じながらも、常に魔法で視界を得ています――それを人に気づかせないぐらい、あまりにも自然に。努力――されてきたのですね」

「よく――分かるっすね」

「私は、人に見えないものが見えます。ですから、分かるのです。例え、瞼で塞ごうとも――私には見えます。金色に輝く、あなたの美しい瞳が」

「本当に、あれを――美しいと、王女様は言ってくれるんすか?」

「ええ、何度でもいいましょう。あなたの瞳は美しい――と」

「でも時々、制御が効かなくなるっす。だから、オラは――」

「そのときは、私が力となりましょう」

「王女様がっすか?」

「シオン――で、いいのですよ」

「え?」

「シオン、ですよ。ネネ」

「し、シオン様」


 その名前を呼び、ネネ様は頬を真っ赤にさせますと――再び、下を向いてしまいます。


「まぁ、いけませんよ――ネネ」


 そう言って、王女様は一歩前に出ますと、ネネ様の頬を両手で包み込み、顔を上げさせました。


「私はこう見えて――この国の王女です。普通の人が知り得ぬ知識を持っています。ですので、あなたの力となることもできるでしょう。そして私は――人よりも魔力耐性に優れています。ですから、あなたの魔眼を受け止めることもできると思いますよ」


 王女様の服の裾を――メイドさんが軽く引っ張ります。大人びた顔が、年相応の表情となっていました。


 王女様は、ネネ様の頬から手を離されます。


「いずれ、私のベットの上で――私だけに、あなたの綺麗な瞳を見せてください」

「な!?」


 ネネ様は、驚かれた声を出されます。


 可笑しそうに笑われたあと、王女様は振り返ります。そして、自分の後ろに控えたメイドさんの頭を撫でました。すると、不満そうな顔から、とびっきりの笑顔を見せてくれます。しかし、すぐに表情を引き締め――何事もなかったかのように、すまし顔になったところを見てしまうと――不覚にも、キュンとしてしまいました。


 か、可愛すぎます!


「それでは皆さま、また後ほど」


 そう言って、王女様はこの場を後にしました。


「な、なんだったんすか? 一体……」


 ネネ様は、ぽつりと呟かれました。

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