第51話 絶対に、大丈夫ですから

 お嬢様が出された点数は、250。


 ど、どうやら、200点満点でもなかったようです!


 今度は、ニーナ様が舌打ちを鳴らしました。


 こ、怖いのですが……。


 あれだけの高得点でも――お嬢様はニーナ様と同じく、特に喜ばれてはおりません。その事実を、なんとなく寂しく思いました。それは――高みを目指される上で、とても大事なことだと分かっております。しかし――お嬢様の喜んだ顔が見たかったという、私の浅ましい感情が沸き起こってしまうのです。


 お嬢様が結界から、出てこられました。


 私は気持ちを切り替えるため、自分の頬を叩きます。そして、精一杯の笑顔を向けました。


「お嬢様、おめでとうございます」


 私の――そんな些細な言葉で、お嬢様は喜んでくださいました。


「さぁ、これで試験は終わりだ。今、ブレスレットを通じてランクの通知が来たはずだ」


 なるほど、ブレスレットを通じてお知らせがくるのですね。


「それじゃあ、Sランクの3人――俺の前に出てこい」


 お嬢様は眉を顰めながらも、ミホーク様の元へと向かいました。


 Sランクは――お嬢様、ニーナ様、ネネ様の3人です。


「俺は信じてたぜぇ、アリーシャ。お前がSランクを取ってくれるってよぉ」

「そうですか、それは良かったですね」


 お嬢様の言葉で、ミホーク様は高笑いします。


「アリーシャ、俺が何故――こんな奴らのためにわざわざ試験官をしてやったと思う?」

「さぁ、私には分かりません。それより、もう帰ってもいいでしょうか? すでに、試験は終わったのですから」

「それはなぁ――生意気なお前をぶちのめすことができるからだよ」


 先程までの笑顔から一転し――無表情で、そう呟かれました。その表情をみて、私の背中に寒気が走ります。


「だから、それは――」

「姫様から許可は貰ってんだよ。Sランクの3人を可愛がる許可はなぁ」


 再び、ミホーク様は笑みを浮かべます。


「あの、馬鹿姫が――」


 お嬢様は、舌打ちを鳴らします。


「だが安心しろ。命まではとるなと言われているし、手足の無事も約束させられた。だけどなぁ、一生消えない傷ぐらいは覚悟しろよなぁ!」


 ミホーク様は笑いながらそう叫ばれると、彼の右手には――いつの間にか、碧の水晶玉。一目見ただけで――それが、規格外の物だと、本能的に理解しました。


「他の屑共には興味ねぇ――だから、帰ったっていいぜ? まぁ、ここから出られればの話だけどな」


 ミホーク様と、お嬢様たち3人を囲うよう――黒い光の輪が形を成します。


『反転』


 その言葉が形となったとき、お嬢様たちが一瞬にして消えてしまいました。


 そして――黒の光輪が急速に縮み、ミホーク様の持っていた水晶玉を締め付けると、それはゆっくりと地面へと落下し、複雑な魔法陣が浮かび上がります。


 私は現状を理解できず、茫然としてしまいました。


 視界がぐらつき、世界が歪み始めます。


 周囲がざわざわとし始めました。


 誰かが、このグラウンドを囲う結界の外へと出ることが出来ないと、そう叫んでいるのが聞こえます。


 それは、おそらくミホーク様のせいだろうと。


 ネーヴェの背中が見えました。彼女は水晶の前で足を止め――その異質な物に手を近づけました。水晶に触れるか触れないかの距離で、黒い光輪が波打ち、黒い光がほとばしります。その衝撃で、ネーヴェさんの右腕が弾かれ、後退されました。


「ね、ネーヴェさん!」


 私は、ふらつきながらも彼女の側まで走りました。


 ネーヴェさんの腕が下がり――指から血が滴っています。


「大丈夫です」


 ネーヴェさんは、うわ言のように呟きました。


「だって、ニーナ様ですから。心配する必要なんてなにひとつありません」


 私はハンカチを取り出しますと、彼女の手に巻きました。


「そうですよ、絶対に大丈夫です。だって――ネネ様がいますし、何よりお嬢様だっているんですから」


 私は自分に言い聞かせるよう、そう――呟きました。


「だから、絶対に大丈夫です」

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