第50話 どうやら私は魔性の女だったようです……。

 試験は順調に進みました。


 皆様、次々と順番に魔法を放っていきます。


 炎が巻き起こったり、地面から尖った岩が飛び出したりと、とにかくいろんな魔法を私は見ることとなりました。


 すごいです。


 これはもう、盛大な魔法ショーですね!


 点数の仕組みはよく分かりませんが、皆さん70〜90点とあまり差がなく、かなりの高得点。流石は王立魔法学院の生徒さんたちです。


 28番目、すごい衝撃音がしました。


 点数は、130。


 どよめきが起こりました。


 ど、どうやら、100点満点ではなかったようです。


 なるほど――攻撃、防御を足して200点満点だったってことですね!


 それにしても、この高得点を出されたのは、両目を赤髪で隠されたネネ様です。私と同じく、あんなに小さいのに、末恐ろしい方ですねぇ。


 そしてお次は、ニーナ様。彼女は結界の中へと入り、杖を生成します。


 ネーヴェさんは祈るように手を握り、ご主人様を見守っています。彼女は殆ど表情が変わらないため、感情が分かりづらかったのですが、最近――少しずつ分かるようになってきました。今、彼女は不安そうにしています。しかしそれは、仕方がないことかと。だって私も、お嬢様のことを考えると――もうすでに心がざわついているのですから!


「お嬢様、すみません。少しだけこの場を離れますね」

「? リッカ――」


 私は、ネーヴェさんのところまで走っていきました。


「ネーヴェさん。ニーナ様なら、大丈夫ですよ」


 そんな――適当なことを、私は口にしてしまいます。言ってから、不味かったかなぁーと思いました。しかし、ネーヴェさんは微かにですが、微笑んでくれました。


「リッカさん、そんなの当然です。私のニーナ様は凄い方なのですから」

「そうですね、本当にその通りだと思います」


 私たちはニーナ様の方へ視線を向けました。


 杖を――的の方に向けられます。先端に大量の風が集まり、それはまさに暴風となりました。


 直径2m以上の大きな風の塊が一瞬にして1/10ほど圧縮します。そう――認識した瞬間、目にも留まらぬ速さで打ち出されました。それはおそらく、ネネさん以上の轟音を響かせます。


 そして、息つく暇もなく的から高出力の魔法が跳ね返されますが、ニーナ様は難なくそれを防御魔法で防ぎました。


 的の上――空中に、数字が浮かび上がります。


 点数は、190。


 とんでもない、高得点です!


 反射的に、拍手をしてしまいました。そんな人間、私だけだったため――恥ずかしくなってしまいます。


 ニーナ様が振り向き、見えた顔は――。


「喜んでいませんね。あれ程の高得点を出したというのに」

「ニーナ様は常に高みを目指されています。あれぐらいで満足されるような方ではありません」

「す、凄いですね」

「ええ、ニーナ様は誰よりも凄いのです」


 確かに凄いと――私はしみじみと思いました。しかし、あれだけの高得点を出しても、全く満足できないのは――何だか、勿体ない気がします。


 ニーナ様が戻ってきました。


 しかし、ネーヴェさんは特に何かを言うつもりはなさそうです。


「ニーナ様、さっきは凄かったですね」

「前も言ったかと思うけど、私――お世辞はいらないから」


 そ、そんなつもりはなかったのですが……。


「リッカ……浮気なの?」


 耳元でお嬢様の声がし、私は慌てて距離を取ります。そして、後ろへと振り返りました。


「お、お嬢様――違いますからね!」


 私は耳を押さえ、ちゃんと否定しました。しかし、お嬢様はあまり納得された気配がありません。


「リッカは本当――魔性の女ね」


 え? 私、魔性の女だったんですか!?


「リッカ――私、今から試験に向かうわ」

「あ、はい。ちゃんと承知しておりますよ。お嬢様、頑張ってくださいね!」


 私は気持ちを込めて、ガッツポーズを行いました。


 しかし、お嬢様は不満そうです。


「……他には、ないの?」


 え? 他――ですか? なんでしょうか、全く思い浮かびません。


「リッカは、本当――私を焦らすのが得意なのね」


 どうしましょう……。本当に、何も思い浮かびません。


「でも、いいわ。許してあげる。だから、さっさとキスをしてちょうだい」


 そう言って、お嬢様はご自分の唇を――人差し指で軽く何度か叩いて見せました。


「こ、こんなところで、出来るわけないですから」

「私は気にしないわ」

「わ、私が気にしますから」

「――ねぇ、リッカ。これ以上、私を焦らさないで」

「ぜ、絶対にしませんからね」

「それは――冗談、なのよね?」


 お嬢様は、笑顔で私に問いかけてきます。その微笑みに、私の心が傾きかけますが――必死の思いで、何とか堪えました。

 

「冗談じゃないですよ、私は本気ですからね!」


 私は言いました。言い切りました。こんな私を、誰か褒めてください!


 私の言葉を聞き――お嬢様が、舌打ちを鳴らします。


 こ、怖いのですが……。


「後で、お仕置きよ――リッカ」


 な、何故ですか!?


 お嬢様は頬を膨らまし、結界の中へと入っていきました。

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