第49話 実技試験は無事に進行しております
「それじゃあ、順番を決めんぞぉ」
ミホーク様がそう言いますと、彼の上にいくつもの黒いおふだが浮かび上がりました。それが綺麗に横へと並んだ後、それぞれ生徒たちの元へと飛んで行きます。そして、お嬢様の手にも、おふだが届きました。そこには、白い文字で30番と書かれています。どうやら、お嬢様はラストのようですね!
「アリーシャ。あんた、順番は?」
ニーナ様とネーヴェさんがこちらへとやってきます。彼女の手にあるおふだには29番と書かれていました。
「なによ、あんた。ラストなの?」
不満そうに鼻を鳴らされます。
「最後だからって、どーせ目立とうって魂胆なんでしょ? 発想がいやらしいのよ」
「? 意味が分からないのだけれど」
「悪いけど、思い通りになんてさせないわよ。私の後になったこと、絶対に後悔させてやるから」
そう言って、ニーナ様は背を向けられますと、再び私たちの元から離れていきます。ネーヴェさんは私たちに頭を下げますと、主人の元へと駆け寄りました。
「手にあるふだ、なくすなよ。それがないと結界に入れないからなぁ。そして、お前らにいいことを教えてやる。手元にある順番は入学試験の結果だ。試験で順位が高かった人間ほど順番が後になる仕組みだ。つまり、先にやる人間はお前より下の人間だってわけだ。だから存分に見下してやればいい。だが、点数が前のやつより低ければ、今度はお前が見下される番だ。入学してからの伸びしろが、お前は明らかに低かったって証拠になるからなぁ」
そう言って、ミホーク様はとても楽しそうに笑いだします。
何人かの生徒がおふだを隠されました。
「今さら隠したっておせぇし、無駄だろ。それより一番、さっさと前に出て中に入れよ、最下位野郎」
誰も、出てくる気配がありません。
「なんだぁー? 俺様がわざわざお手々繋いでやんねぇーと出てこれねぇのかぁ?」
ひとり、前へと出ました。
マイケルくんです。
彼なぜか拳を握り、頭を下げたまま足を動かします。
「さっきくだらないこと言った奴か。予想通りだな。お前、家名もない平民出身の奴だろ? 確か、刻印はクレイ家――無駄な買いもんをしたもんだ。そいつらには、この俺が直々に同情してやる」
ん? なんでしょうか――なにか、嫌な感じがしました。それは、私の気のせいではないような気がします。だって、一瞬見えたマイケルくんの表情が落ち込んだように見えましたから。
彼とは――殆ど話したことはありません。しかし、とても謙虚で優しい方だという印象があります。私がマイケルくんを"様"で呼んだとき、とても困った顔をされました。そして彼は言ったんです。――僕は"様"と呼ばれるような器ではないから、"様"はつけないで欲しいと。
「だけど、めげる必要はねぇよ、三下ぁ。下に誰もいないってのは気楽でいいと思うぜ? 何せ、後ろを見なくていいんだ。前だけみてりゃーいいんだからよぉ。本当、羨ましいかぎりだぜぇ」
あれ? どうやら、私の勘違いだったみたいです。ミホーク様は悪役のように笑っておりますが、マイケルくんを励ましているんですね!
だって、めげる必要はないと仰ったんですから。
それでもまだ、マイケルくんは暗い顔をして、立ち止まってしまわれました。これは、私も励ましの言葉をかけるべきなのかもしれませんね!
「そうですよ、マイケルくん。ミホーク様が言うように、めげる必要なんてありません。あなたはこの素晴らしい学院に入れた大天才です。ですから、誰かと競うのではなく、自分との戦いだと思います。そう――戦う相手は自分自身です。後ろにいる昨日の自分に打ち勝ってください。私も、ミホーク様と同じく応援していますから!」
私はガッツポーズをします。
なぜか、みんな私を見て――は? というような顔をされました。一緒に励まし合っていたはずのミホーク様まで、白い目で私を見ております。
ニーナ様は爆笑し、お嬢様からはなぜか脇腹をつねられました。すごく、痛いです!
しかし、マイケルくんは少しだけ――笑ってくれた気がしました。
「なんだぁ? このガキ。さっきから、ふざけたやつだな?」
え? そんなことないですよ? 私は常に真剣です!
ミホーク様はこちらにゆっくりと近づいてきました。な、なんか、圧を感じるのですが!
「ミホーク様、止まってください。その薄汚い目で私の婚約者を見ないでいただけますか? 不愉快ですから」
お嬢様が前へ出ると、手で私を後ろへと下げました。
ミホーク様は、私からお嬢様の方へと視線を向けます。
「……アリーシャ、あんまりいい気になるなよ。ここにセリーネはいない」
「まさか、知らないのですか? 学院内で人への攻撃はご法度ですよ」
「知ってるさ。だから、後のお楽しみだな」
ミホーク様は顔を歪めながら笑いますと、私たちから背を向けられました。
「おい、三下ぁ。さっさと中に入りやがれ!」
そして、無事? に試験が始まるのでした。
――――――
ちょっとした小話なのですが、マイケルくんの試験が終わったあと、わざわざお礼を言いに来てくれました。
すごく嬉しかったです!
しかし、そのあと再びお嬢様につねられてしまいました。
すごく痛かったです!
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