第48話 実技試験開始なのであります!

 あれから2週間ほどの時が過ぎ――今日は、実技試験の日です!


 そこでランク付けをされ、実技試験の後から始まる実習はそのランク事に別れて行われるとのことです。仕事の依頼なども、そのランクによって割り振られるのだとか。


 ニーナ様はいつも以上に気合いが入り、お嬢様はいつも通り冷静な御姿でした。


 私は参加できないため、応援するのみなのがとても歯痒いです。


 因みに試験の内容は、3つほど。


 ひとつは、魔法の威力の確認。

 ふたつは、防御魔法の強度の確認。

 みっつは、展開された結界を解読し、どれだけ素早く解除することができるか――だそうです。


 その試験内容により点数が割り振られ、ランクが決まるのだとか。


 ランクはS〜Eまでとなります。


 最高ランクであるSはたったの3人。Eは一番数が多くて7人となり、他は5人とのこと。その割り振られたメンバーでチームを組み、依頼の仕事を行うこととなるそうです。その仕事結果によりランクが変動するとのことですが、メンバーの変更は基本ないとのこと。


 寮もそうですが、このチーム制も魔法使いたちの仲間意識を強めるのが狙いなのだとか。


 それ、すごくいいことだと思います!



 

 * * *

 



 試験会場は、普段授業を受ける建屋から少しだけ離れた場所にありました。そこは広いグラウンドです。周りはしっかりと結界により保護されていました。


 生徒たちがぞろぞろと中へと入ります。しかし、特に何も見当たりません。


「もういい、そこで止まれ。ガキども」


 声がしたかと思うと、グラウンドの真ん中に突然、人が現れました。全身黒ずくめの格好をした、長身で細身な男性。耳や口にピアスをいくつもつけ、目付きが鋭く、圧を感じます。髪型がとても特殊で――左側は完全に刈り上げているのですが、右側は金色の髪が腰までまっすぐに伸びています。初めて見る髪型に、私は感動しました。流石は、王都ですね!


「あれは、十賢者のひとり――ミホーク様だ」


 生徒のひとりが、思わず――と言った感じで言葉にしました。


「何故、ここに?」


 生徒の間で、ざわざわとし始めます。


 どうやら、かなりの大物のようです。


「十賢者と言えば、確か――セリーネ様と同じ、ですよね?」


 私は、隣にいるお嬢様へ小声で尋ねました。


「そうね、だけど同じと言ったらセリーネ様に失礼よ。彼女の階位は第一位だけど、彼は最下位の第十位。同じ組織というだけで、実力に差があり過ぎる」

「おい、聞こえてんぞぉ、そこの女ぁ!」


 第十位の方が、お嬢様を指さされました。


 私たちは一番後ろで待機していたのですが、目の前の方たちが驚く速さで道を作ってくれます。


 も、もしかして、怒られているのでしょうか?


 お嬢様は無表情ですが、私は”あわあわ”としてきました。


「す、すみません、第十位の方、お許しください。お嬢様に、悪気などないのです!」


 私は慌てて、頭を下げました。


「オメェもわざわざ第十位と呼びやがって、喧嘩売ってんのかぁ!?」

「め、滅相もありません!」


 なぜ私まで怒鳴られたのかが分からず、私は慌てて手を振ります。


「気にする必要などないわ、リッカ。私たちは何も悪くないのだから」

「俺が全て悪いってのかよぉ、あぁ!」


 や、やはり、すごく怒られている気がします!

 

「ミホーク様、無駄話は結構かと思いますが? ですから、さっさと本題に入ってください」


 お嬢様は凛とした雰囲気で、口にしました。


 み、ミホーク様ですね。ミホーク様は、ものすごい形相でしばらくお嬢様を睨みつけていましたが、身を乗り出していた身体をもとに戻されます。


「まぁ、いい。アリーシャ。後でぜってぇーぶちのめしてやるからなぁ」


 呪詛の籠もった言葉を吐かれたあと、生徒たちに目を向けます。


「――知ってて当たりめぇーだが、俺は十賢者のひとりミホーク様だ。喜べ、ガキどもぉ。今日は俺が試験官をしてやる。だから、死ぬ気で励めよぉ」


 生徒たちは、喜ぶと言うよりは戸惑っている気がしました。


「じゃあ、さっさと試験を始めんぞ、おらぁ」


 ミホーク様は、指を鳴らします。その瞬間、彼の隣に四方八方10mほどの四角い結界が現れました。そして、その中には円形の的らしきものがあります。


「ひとりずつ中に入って、地面に書かれた白い線からあの的に攻撃をあてろ。今回の試験はたったこれだけだ。簡単でいいだろぉ?」

「試験内容は、3つだと聞いていましたが?」


 ニーナ様が発言しました。私たちとは距離があります。普段は仲良くしていただけるのですが、授業や試験となるとニーナ様は私たちとは距離を取られ、少し態度が冷たくなります。


「……お前、ベルエール家のもんか」


 ミホーク様は、ニーナ様を見て目を細めます。

 

「だとしたら、何ですか?」


 ニーナ様は勇敢にも、睨み返しました。


「別にぃ――深い意味はねぇーよ」


 ミホーク様は鼻で笑います。


「何事も、予定変更ってもんがあんだよ。だから頭は常に柔軟であることだな」

「私の頭が固いと――そう、言いたいんですか?」

「因みにだが、あの的は特別製だ。当たった攻撃により自動的に採点される。その基準は単純に威力だけではないから気をつけるこったな」


 そう言って、ミホーク様は生徒たちを見渡しました。


 ニーナ様は不愉快そうに腕を組まれ、他の生徒たちはそれぞれ考え込まれます。


「つまり、あの的にある術式を解読し、より適した攻撃を当てなければならないってことっすか?」


 ひとりが手を上げて、そう尋ねました。あまり話したことはありませんが、名前はネネ様です。


 私たちとは違うウェスト寮の方で、白いセーラ服と白いタイツ姿。少し大き目な白いベレー帽を被っており、大変可愛らしいです。私と同じく背が低く、赤く燃えるような髪は肩までの長さ。両目が前髪で隠れているのが特徴的だなぁと私は思います。


「その通りだ。その術式を作ったのは俺だがぁ、そこまで複雑じゃねぇーから安心しろ。それに、時間制限が5分もある。それで短いと思うんならさっさとこの学院を辞めることをおすすめしてやる」

「しかし、それでは不公平がでるのではないですか? その最も適した攻撃が、使えない属性だった場合――」


 赤い学生服を着た、マイケルくんが発言しました。丸刈りでがたいがとても大きい方です。

 

「お前馬鹿かぁ? 敵の弱点である魔法が使えないから不公平だと言って、お前は死んでくのかぁ?」

「そ、それと、今回の話は――」

「いーや、何も変わらんねぇ。全くもって、同じ話だ。そんなくだらねぇーことを言うやつがいるとか、今年のレベルは思った以上に低いんだな」

「うっ――」

「まぁいい。それより、当てた魔法は必ず反射し発動者の方に返ってくるようになってる。ただし、避けるなよぉ? それをかならず防御魔法で防いでみろ」

「つまり、自分で防ぐことのできない魔法は使えないってことっすね」

「自殺願望があんなら、俺は別に止める気はないぜ?」

「しかし、如何に防いだかも――点数に加算されるんすよね?」

「はっ、そんなの当たりめぇーだ。的の上に数字が浮き上がってくるが、その点数は防御魔法込みでの点数だ」

「因みにですが、順番によって不利益はでないんすか?」

「そこは気にすんな。術式はランダムで変わるようになってる。だから、単純に前の人間を参考にはできねぇーよ」

「了解したっす」

「他に質問はねぇーか?」


 誰も声を上げません。


「それじゃあ、試験開始だ」


 ミホーク様は、まるで悪役であるかのように笑みを浮かべました。

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