第47話 お嬢様、エッチなのは駄目だと思います!
寮に戻った瞬間、お嬢様は私の手を取りました。
「お、お嬢様?」
言葉もなく、お嬢様が急に走り出したため私の身体が引っ張られてしまいます。予想以上に速度が加速し、階段も短い足を必死に伸ばしながらついていきます。後ろからニーナ様の声がしましたが、返事をする余裕などありません。
お嬢様の部屋へ辿り着いたときには、短い距離ながら息が上がってしまいました。
扉が開き――休む暇もなく部屋の中へと引きずりこまれます。戸が閉まり、ベットまで腕を引っ張られました。お嬢様はお布団の上にプレゼントを軽く投げますと、私の方へ振り向き、抱きしめてきます。咄嗟のことで、身を固くしてしまいました。
「リッカ――私、ひとりで頑張ったわ」
「はい、お嬢様。偉かったですよ」
そう言って、私はお嬢様の背中を"ぽんぽん"と叩きました。その瞬間、子供扱いをしてしまった気がして――不安になってしまいます。お、怒られないでしょうか?
「リッカ――リッカ」
お嬢様は私の名前を何度も呼び、興奮した感じで、頭と頭を”すりすり”してきます。
ど、どうやら、怒られてはいないみたいなので、ほっとしました。
それにしても、いつも以上に――私はお嬢様から強く求められている気がして――嬉しいような、恥ずかしいような、そんなよく分からない感情で心が揺さぶられます。
お嬢様は身体を離し、私の肩に手を置くと、じっと見つめてきました。
何だか――変な雰囲気になってきたような? それは、私の気のせいだと良いのですが……。
「お、お嬢様」
「何? リッカ」
「い、今はまだ、日も沈んでおりません」
「そうね、だから――何?」
「え、エッチなのは、駄目だと、思います。私の勘違いなら、良いのですが」
「勘違いじゃないわよ、リッカ」
お嬢様の言葉を聞き、私は何とも言えない気持ちとなりました。
「その、まだ――日中、ですよ?」
「そうね、そう思うと、余計に燃えてくるわね」
「そ、そんなことは、ないかと思いますが」
「そんなことあるのよ、リッカ。それより、もうそろそろ限界だわ」
「お、落ち着いてくださいね」
「落ち着ける訳ないわ、だってこれはもう、リッカのせいなのよ」
なぜ私のせいとなるのか、いくら考えても検討がつきません。私はどうしたものかと、視界をぐるぐると見回しています。すると、ある物が目に止まりました。
「そ、それよりも、お嬢様、私が渡した枕――どんなのか、気になりませんか?」
布団の上に投げ込まれた私のプレゼントは、まだ包装紙の中にあるため、早く見ていただきたいと思いました。
「リッカ、そんなの――後でいいわ」
そん、なの?
「えっと――でも、すごくいい、枕ですよ?」
「リッカ、そんなのどうでもいいわ。それよりも、私は――」
どうでも、いい――ですか。
「そう――ですよね。たかが、枕ですから」
「り、リッカ、そんな悲しそうな顔はしないで! い、今のは言い方が悪かっただけだわ。勘違いしないで、リッカからの枕は本当に最高だわ!」
「まだ、見られてもいないのにですか?」
「そんなの、関係ないわ! だって、リッカからのプレゼントよ?」
「気を使う必要なんて――ないんですよ? お嬢様」
私は笑顔のつもりです。でも、その顔が悲しそうに見えたのなら、私の心が弱かったからです。ですから、これからはもっと精進あるのみですね!
プレゼントはあくまで、私の自己満足を満たすもの。渡し、受け取って貰えたのです。それ以上を求めるのは――私の、ただの我儘。
「分かっていない。リッカは、本当に何も分かっていないわ」
そう言って、お嬢様は私の頬を両手で塞ぎます。
「リッカが私のことを考え、私のためにプレゼントしてくれたのよ? それだけで、それ以上の贈り物なんて――この世界には存在しない。だけどね、リッカ。あなた自身の価値はそれ以上なの。どんな素敵な贈り物も、どんな価値のあるプレゼントも、あなたを前にしたなら、それはくすんでしまうもの。私――前にも言ったわよね? あなた以上に価値があるものなど、この世界のどこにも存在しない」
お嬢様は目を潤ませながら、私を見つめます。
「お、お嬢様は――変なことを、仰っています」
私に――そんな、価値などないと思います。
「それは――あなたのせいよ、リッカ」
そう――なん、でしょうか?
「だから、あなたが欲しいのよ、リッカ。私は、今すぐに、あなたが欲しい」
い、意味が――分からなくなってきました。
「リッカ」
お嬢様は私の名前を呼び、顔を――ゆっくりと、近づけてきます。
私は頭が混乱しながらも、目を――閉じてしまいました。
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