第45話 お嬢様への誕生日プレゼント
ニーナ様と二人で街の中を歩きます。
相変わらず、見るもの全てが目新しく辺りをキョロキョロと見回してしまうのです。
クレイワース家のメイドとして、あるまじき行為だと自覚し、気を張っているつもりなのですが――つい、意識がもっていかれます。
「何よ、そんなに興味が惹かれるものある?」
「そ、そんなの、あり過ぎますから。驚きの連続ですから!」
だから、仕方がないのであります!
いえ――やっぱり、駄目かもしれません。
クレイワース家のメイドとして、はしたない行動です。
お嬢様……こんな駄目なメイドを、お許しくださいませ!
「……アリーシャは、外へ連れてってくれないの?」
「お嬢様は、外へ出るのがお嫌いですから」
「とんだ引きこもり野郎ね、あいつは」
そんなことありませんよ! とは、言えませんでした。でも、引きこもることが別に悪いというわけではないですよね?
「あのお店が、寝具関係で有名なお店よ」
そう言って、ニーナ様は指をさされます。
語彙が少なく申し訳ないのですが、何だか洒落た素敵なお店です。
しかし――。
「高そうなお店ですねぇ」
今、持っているお金で足りるでしょうか? 何だか、不安になってきました。
「値段が手頃の割に、上質な物を提供しているらしいから、まぁ、大丈夫なんじゃない?」
おぉ、何だか良いお店のような気がしてきました。期待が増し増しですね、これは!
ニーナ様の後に続き、ドキドキしながら中へと入ります。
店内は広く、ベットや布団等の寝具だけでなく、タンス等の家具もたくさん並べられていました。
枕だけで色んな種類があり、テンションが上がってきます。
「これだけ数があると、どれにするか検討もつかないわね。何か、選ぶ基準とかあるの?」
「はい。お嬢様が長年愛用されてきた枕に近いものを探します」
私は店の棚に置かれた枕を触って確認します。
「そんなもの、分かるの?」
「それは当然です。何せ私、お嬢様の専属メイドですから。ですので、お嬢様が愛用してきた枕の肌触り、硬さと高さはしっかりと覚えております」
「へー、そうなんだ。すごいわね」
ほ、褒められてしまいました!
ニマニマ顔にならぬよう、気を引き締めて作業に取り掛かります。
そして、無事――理想的な枕を見つけ、購入することができました!
枕は綺麗な包装紙の中に包まれ、私の腕の中に収まります。
「良かったわね」
「はい! これも全てはニーナ様のおかげです。このご恩は決して忘れませんので、私でできることがあれば、全力で力になりますよ!」
「何か、大げさね。別に、普通にありがとうって言葉ひとつで十分よ」
「はい、ニーナ様。ありがとう御座います!」
私の言葉で、ニーナ様は笑みを浮かべますと、私の頭を数回、優しく撫でてくれました。
あれ? もしかして私、子供扱いされましたか?
いや――まさか、そんなことはありえませんよね?
だって、私の方がお姉さんなのですから!
しばらく、街をぶらぶらとしたあと、ニーナ様のお気に入りのお店で紅茶をいただきました。とっても、美味しかったです。しかもなんと、奢っていただきました!
「気にしないで」
と、ニーナ様はおっしゃいます。
私が申し訳ない気持ちとなったことを察し、さり気ない気遣いの言葉をかけてくださいました。
なんと、いうことでしょうか。
ニーナ様、格好良すぎます!
帰る道の途中、教会関係の方々が列を作って歩かれているのを見かけました。
何故か、彼らからジロジロと見られている気がします。
な、何か、粗相でもしているのでしょうか?
「心配する必要なんてないわよ。奴らに目を向けず、堂々としていればいい。このベルエール家、ニーナがあんたのすぐ傍にいるのだから」
「は、はい!」
おぉ、流石はニーナ様。なんだか、かっこいいです。
「それにしてもあいつら、あんたに興味があるらしいわね」
「え? な、なんでですか?」
それって、良い意味ですか? それとも、悪い意味ですか!?
「だってあんた、何か変だし」
「へ、変なんですか!?」
「なんて言うのかしら? マナの流れが、普通とは少し違うのよ。だから、気になるんじゃない?」
「それって――良いことなんですか?」
「もしかしたら、実験台にされるかもね」
「え?」
ニーナ様は、私を見て笑みを浮かべられます。なんだか、怖い笑みを。
あ、足が、ガクブルしてきました!
「冗談よ」
と、ニーナ様は仰いました。
な、なんと恐ろしい冗談を言うのでしょうか。こんなの、冗談では済まされないと思いますよ!
「でもまぁ、あいつら、今は神経質になっていると思うから、冗談抜きで気をつけたほうがいいとは思うけど」
「ど、どういう意味でしょうか?」
「あいつら、聖女の再来を信じているのよ。だから、少しでも変わった人間を見つけると、付き纏ってくるかもね」
「聖女――ですか?」
「そう、聖女。何百年に一度生まれ、この世に安然をもたらす存在であり、この世界の人間ではないともいわれている。とはいえ、迷い人ではないらしいわね」
迷い人――異世界から、この世界へと迷い込んだ人。
「聖女は転生者と呼ばれている。この世界の人間でありながら、この世界の人間ではない――そんな、不思議な存在。彼女は人々の傷を癒し、疫病を鎮め、魔物の活性化を抑え、豊かな食物を実らせる――とのことよ。全くもって、眉唾ものね。この世が闇に包まれるとき、聖女が現れるらしいわ」
そう言って、ニーナ様は鼻で笑われました。
「しかしまぁ――実際、この大陸の最東端では異常事態が起きている」
「異常――事態、ですか?」
「そこではマナが消え、魔法が使えず、草木が育たない。人の暮らすことができない不毛な土地となり、現在――その一帯は黒い霧に包まれている。見たこともない魔物が大量に発生し、人が近づけない土地となった。だから、聖女という希望にすがりつきたくなる気持ちは分かる。けれど、私はそういうのあまり好きじゃないわ。何か、他人任せみたいじゃない? だから、私は嫌いだわ。そう言うの」
「そうなった原因は、まだ分からないんですか?」
「色んな人間が解明に努めている。だけど残念ながら、まだ原因は突き止めていない。だから、私としては――この学院を卒業したら、そこの調査員になりたいって気持ちがあるわ」
「それは、立派ですね」
「でも、それだけじゃない。私は、この広い世界を冒険し、色んな問題を解決してみたい」
そう言って、ニーナ様は笑みを浮かべました。しかし、それはほんの一瞬だけでした。
「だけどそれは――私個人の夢ね。私は、ベルエール家の人間として、やらねばならないことがある」
どこか遠い目をしながら呟く、ニーナ様。
「リッカ」
後ろから、声がしました。
私はすぐに、誰の声かわかりました。
この美しい音色は、お嬢様しか奏でることができませんから!
私は後ろへと、振り返ります。
やはり、お嬢様です!
とても、優しげに微笑まれております。
「これは――浮気?」
なぜか、今まで感じたことがないぐらいの圧を感じました。
ふ、吹き飛ばされてしまいそうなのであります!
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