第42話 今日も私は幸せです
私は、寮の外でお嬢様をお見送りしました。
必死に手を振ります。
頑張ってください、お嬢様。
私、応援してますから!
お嬢様をお見送りしたあと、私は初めてこの寮にある自分の部屋へと入りました。
お付きの人間の部屋とはいえ、お嬢様のお部屋となにも変わりません。その事実に、私は申し訳ない気持ちとなります。
私はベットの端に座りますと目を閉じました。
ひとりになると――いつも以上に、クレイワース家が懐かしくなります。
あそこでは、いつも仕事がたくさんありました。それは――私にとって、幸せなことでした。誰かのために一生懸命働けることは、素晴らしいことですから。
私がこの学院に入ってから、お嬢様のために働けているという実感があまりありません。それなのに、先程あれだけ偉そうに発言した自分がつくづく嫌になります。
お嬢様は――私がいるだけで、側にいてくれるだけでいいと、そう仰ってくださったことがありました。
本当に、私は幸せ者。
それだけの幸福をいただきながら、誰かのために働いている――そんな実感がないと、不安になる私は、どこかおかしいのだと思います。
だから、そんな自分勝手な私を――私は捨て去らなければならないのです。
だけど今はただ、魔力を自由自在に操れるようになり、お嬢様を守れるぐらい――私は強くなりたい。
そうすれば、お嬢様はきっと――私を信頼してくれるはずですから。
* * *
私が部屋で精神統一をしていましたら、お嬢様から念話がかかってきました。それは突然のことで、私はびっくりとしてしまいました。
一体、なにがあったのでしょうか?
私は――不安に襲われました。
私は両耳を塞ぎ、お嬢様の呼びかけに集中します。
『リッカ、大丈夫かしら?』
え?
私の台詞――先に言われてしまいました。
(何か、あったんですか?)
『こちらは何もないわ。それより、リッカの方は何もなかったかしら?』
(お嬢様が出られてから、まだ1時間もたっていませんよ?)
『何を言っているの、リッカ。時間など関係ないわ』
そう――なんでしょうか?
確かに、お嬢様に言われるとそんな気がしてきました。
(私のことはいいですから、そちらに集中してください)
いくらお嬢様とはいえ、念話中はどうしても周りへの意識が散漫となってしまうでしょうから。
『リッカ、私の方は大丈夫よ。気にしなくても、全く問題ないわ』
(それは私の台詞ですよ、お嬢様。こちらは大丈夫ですから、ご自分のことだけをお考えください。今朝お伝えしたかと思いますが、私のことでお嬢様を不安にさせたくないのです)
『リッカ、それは違うわ。私は不安に思っている訳じゃなく、ただ心配しているだけよ』
むむ?
(それは――同じ意味ではないのですか?)
『何を言ってるの、リッカ。全く違うわ』
なる、ほど?
なんだか、訳が分からなくなってきました。
(と、とにかく、私のことは気にせず、ご自分のお仕事を全うしてくださいね!)
『何を言ってるの、リッカ。そんなことは無理よ』
何でしょうか?
まとまったはずの話が、振り出しに戻ったような――そんな錯覚に、私は陥ってしまいました。
それは――私の気のせいでしょうか?
(……お嬢様、私はやはり、クレイワース家に帰った方がよろしいのでしょうか?)
何だか、色々と不安になってきました。
本当に、私はお嬢様の力となっているのでしょうか? 私の存在が、お嬢様の足枷となっているようにしか思えません。
『り、リッカ、早まっては駄目! とりあえず一旦、落ち着きなさい。深呼吸――そう、深呼吸をするのよ、リッカ!』
(お、お嬢様、私は冷静ですから!)
『ありえないわ、リッカ。冷静な人間が、そのような世迷言を口にするなど――ありえない話よ!』
そう、なんでしょうか?
何度か話がループしながらも、お嬢様にはなんとか納得して貰い、念話を切りました。
私の口から、溜め息が漏れてしまいます。
なんと、情けないことか!
そんなどうしようもない私の頬を、両手で思いっきり叩いて気合いを入れ直しました。
頬が”じんじん”とします。
ちょっと、やりすぎたかもしれません。
それにしても――お嬢様は、愛が深いお方なのだと、私はしみじみと思いました。
……私、ついていけるでしょうか?
* * *
さぁ、お昼の時間であります!
私は、ひとりで食堂へと向かいました。
食堂は、学院の敷地の真ん中付近にあります。
一月以上ここにおりますが、学院の中は意外と複雑でまだ完全には把握が出来ておりません。ひとりでの行動は初めてのため、少し不安だったのですが無事に辿りつけることができました。
私のブレスレットも、ナビ機能があると助かるのですが……。
食堂はとても広い場所で、長机がたくさん並んでおり、生徒の方が疎らに座っております。
配膳台に置かれたお盆を手に取り、調理場の方へと向かいます。
「こんにちは。今日も、お仕事お疲れ様です」
「あら、リッカちゃん。今日はひとりなのかい?」
料理長であるランさんは、とても優しく気持ちのいい女性です。
「はい、今日はお嬢様がお仕事にでられていますから」
「あら、そうなのかい? それは心配な話だね」
「いえ、私はお嬢様のことを信じておりますから」
「信頼しているんだね、お嬢様のことを」
「はい、当然なのであります」
私は、胸を張りました。
お嬢様は私に、何も問題ないと仰ってくださったのです。それならば、私が不安になる必要などないのでありますよ!
――とは言いつつも、多少は心配してしまいます。だけどそれは、僅かに心が揺れ動くのみです。そのため、どうかそれぐらいの心配は――お許しいただきたいと思います。
「そうかい、それは立派だね。立派だから、今日も大盛りだ。食べて早く大きくなりな」
私のお盆の上には、他の方より多めに盛った料理たちが並べられていきます。
いつも、何か理由をつけては大盛りにしてくれるランさんが、私はとても大好きです!
「ありがとうございます。今日もすごく美味しそうですね。ランさんの愛情がひしひしと伝わってくるようですよ!」
「そうかい、それはありがとうよ」
そう言って、ランさんはとびっきりの笑顔を見せてくれます。
私はランさんに頭を下げ、一番奥の端の席に座りました。できるだけ、皆様の邪魔とならなぬよう気をつけねばなりませんからね!
私はランさんの愛情のこもった料理たちを口にします。はい、私は本当に幸せ者だと思います。
「あんた、本当に美味しそうに食べるわね」
顔を上げますと、ニーナ様がおひとりで目の前に立っておりました。
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