第37話 寮生活の始まりであります!

 この学院には4つの寮があり、それぞれにイメージとなる色があるとのことです。そしてそれぞれ、男子寮と女子寮で別れています。


 1つは東の端にある、イースト寮。色は青で、男子寮。

 2つは西の端にある、ウェスト寮。色は白で、女子寮。

 3つは南の端にある、サウス寮。色は赤で、男子寮。

 4つは北の端にある、ノース寮。色は黒で、女子寮。


 私たちは、北の端にあるノース寮と決まっています。


 この学院は六角形の壁により守られており、唯一の入口は南東にあります。


 寮の組み分けがどうなっているのかは、お嬢様にも分からないとのことです。


 ノース寮の外観は黒の四角い大きな建物でした。


 中へと入ります。


 ロビーがとても広く、目の前にはこれまた横に広い階段がありました。


 内装も黒を基調としており、どこか薄暗さを感じます。


「よくきてくれた、君たちも新入生だね」


 横から元気そうな女性が現れました。ショートカットがよく似合う、ボーイッシュな方です。


 お嬢様が煩わしそうな顔をしました。私は慌てて、少しだけ前に出ると頭を下げます。


「し、新入生です。我がお嬢様はクレイワース家のアリーシャ様です」

「これはご親切にどうも。僕はリール家のセシリアだ。こう見えて寮長だから、何かあったら気軽に相談してくれたまえ」


 白い歯を見せ、きらりと光らせました。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。私は、お嬢様の専属メイドのリッカと申します」

「ああ、知ってるとも。なにせ、僕は寮長だからね。この寮に入る人間は、全て把握済みさ」

「これはリール伯爵家のセシリア様とは気づかず、挨拶が遅れました。アリシアです」


 お嬢様は無表情のまま、挨拶をしました。


「公爵家の方から直々に頭を下げられるというのは、すごい体験だね」

「セシリア様とて知っているでしょ? クレイワース家はただの置物でしかないことを」

「僕はそう思わないよ」


 セシリア様は、真剣な顔つきとなります。

 

「今のこの国があるのはクレイワース家のおかげだと僕は思っている。その恩を忘れることなど、この先だってありえないよ」


 お嬢様はじっと、セシリア様を眺められたあと――少しだけ、表情を緩められました。


「もう、姫様から聞いたと思うけど、この学院の上では家柄など関係ない。だから、これからは自己紹介のとき、家名は出さないほうが良いと思うよ」

「そ、そうでした。すみません」

「謝る必要なんてないよ。これから気をつければいいだけの話だからね。これからは、同じ寮の仲間となるんだ、よろしく頼むよ、リッカ君」

「はい、セシリア様」

「駄目だよ、リッカ君。僕に "様"をつけるなんて禁止だ。これからはセシリア先輩と、そう呼んでくれたまえ。リール家としてではなく、この学院の先輩として、君から慕ってもらえるよう頑張るよ」

「でも、セシリア様――私は、ここの生徒ではないですよ?」

「そんなことは関係ないよ。僕にとって君は同じ寮の仲間なのだから」


 そのさり気ない言葉は、とても格好いいと思いました。


「あ、ありがとございます、セシリア先輩」


 先輩は、優しげに頷いてくれました。


 何故か――お嬢様は再び、ムスッとし始めます。理由が分からず、何だかそわそわとしてきました。


 セシリア先輩はお嬢様の方に視線を向けます。


「クレイワース家の君としてではなく、この学院の後輩であるアリーシャ君として、これからもよろしく頼みたいんだが、どうだろうか?」

「不必要に関わるつもりなどありません。ですので、私とリッカに関しては――ほどほどによろしくお願いします。セシリア先輩」


 お嬢様のお言葉に、私はあわあわとしてしまいます。


「これは手厳しい。だけど、始めの一歩としてはそれで十分だよ。それよりも、今私が着てる服――どう思うだろうか?」


 そう言って、セシリア先輩は自分の服を掴みました。


「えっと、とても可愛らしい服だと思います」


 この世界では、とても珍しい服です。ただ、スカートが短すぎると思います。どんなに短くても膝上までの長さが限界だと思います。流石に太ももが――ちょっと見えるのは、エッチであります!

 

「これは、セーラー服と呼ばれるものらしい。初めはスカートの長さが短く恥ずかしかったものだが、流石にもう馴れたよ」

「な、なるほど。そうなんですね」

「これは、異世界人が着ていたと言われる学生服さ。3年前に姫様がこの学院の制服として採用し、デザインをしたらしい。女子はセーラ服で、男子は学ランと呼ばれる――これまた異世界人の学生服だ。まぁ、学ランの方は姫さまのデザインではなく、別の人間に丸投げしたらしいがね」

「え? このセーラー服をお嬢様が着られるんですか?」


 お嬢様は明らかに嫌そうな顔をなさりました。


 何というとことでしょうか?


 ……そんなの、見た過ぎます!


「アリーシャ君の気持ちはよく分かるさ。僕も最初は本当に嫌だったからね。詳しくは、自分の部屋に入った瞬間ブレスレットから情報が届くはずさ。そのため、覚悟しておくといい」

「あの人のことだから――おそらくは強制なのでしょう?」

「そうだね、その制服でないと授業は受けられないよ。後で分かることだが、制服は自分の部屋のクローゼットの中に何着か入っている。驚くぐらい自分にぴったりのサイズなんだ。あの時は、我が目を疑ったよ」


 お嬢様は、鼻で笑いました。

 

「大したことではないが、制服は寮によってそれぞれ色が違う。だから、着ている制服でどこの寮の人間かすぐ分かるようになっている。ノース寮は見た目通りの黒。襟と袖、リボンは少し薄い灰色となっているけどね。もうひとつの女子寮であるウェスト寮は、全てが純白の白となっているんだ。襟と袖、リボンもね。男子寮であるイースト寮は青の学ランであり、サウス寮は赤の学ランだ」

「……因みにですが、リッカの分は?」

「それが残念ながら、付き人の分はないんだ」


 その言葉に私はほっとなりました。


「馴れない内は黒のストッキングを履くことをお勧めするよ。それも、同じクローゼットの中に入っている。因みにだが、それも指定だ。他のタイツでは授業を受けられないよ」

「あの……くそ変態姫様が」


 お嬢様は、ポツリと呟きます。


「ははは、その気持ちはよーく分るよ。だけど、不思議と憎めないんだよね、あの人は。あれがカリスマって奴なのかな?」

「さー、どうなんでしょうね」


 お嬢様は私の手を取ります。


「それでは、失礼します」


 そう言って、歩き出すお嬢様をセシリア様は呼び止めました。


「最後にひとつだけ」

「……何ですか?」


 お嬢様は眉根を寄せます。


「ごめんごめん。だけど寮長としてこれだけは絶対に言っておきたいんだ」


 セシリア先輩は腰に手を置きます。


「寮の対抗試合でこのノース寮は毎年最下位となっている。だから、今年こそは1番となるんだ。僕たち全員の力でね」


 そう言って、セシリア先輩は白い歯を見せて笑ったのでした。

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