第38話 私とお嬢様のお部屋

 ノース寮。


 1階は大きなロビーと、広い談話室のみ。


 階段を上った後にある踊り場もすごく広く、大きな古時計がひとつのシンボルとなっております。


 2階は3年生たちの部屋。3階は2年生たち――そして、4階は1年生のための場所。


 3階と4階を繋ぐ踊り場で、ニーナ様とネーヴェさんと鉢合わせ致しました。


「げっ、なんであんたたちがここにいるのよ。ありえないっての。だってアリーシャ、私たちはライバルよ?」

「本当、ありえませんね」

「ネーヴェ、あんたもそう思う?」

「ええ、思いますとも。なにせ、ライバルが同じ寮になど――エッチなハプニングが起こる気配しかしません」

「それはあんたの頭の中だけの話だから、全く以って問題ないわね」


 私は立ち止まって挨拶しようとしたのですが、お嬢様は無言で私の手を引っ張り――ニーナ様たちの横を通り過ぎ、階段を上っていきます。


「あ、ちょっと、こら、無視すんな!」

「す、すみません。同じ寮でよかったですね」


 私は失礼ながら、顔だけを向け挨拶をします。


「言い訳あるか!」


 しかし、ニーナ様は先ほどまで落ち込まれておりましたので、元気になられたようで本当に良かったと思います。


 結局――お嬢様はニーナ様の前では立ち止まることはせず、とある部屋の扉の前で止まります。


 お嬢様がドアノブを掴みますと、取っ手の上に小さな魔法陣が浮かび上がり鍵の開く音がしました。


「ここが、お嬢様のお部屋なのですか?」

「違うわ、リッカ」

「え? 違うのですか?」

「そう――ここは、私とリッカの部屋よ」


 そう言って、お嬢様はドアノブを捻り、トビラを開けました。


 私はお嬢様に手を引っ張られ、中へと入ります。


 扉が勝手に閉まり、鍵も自動的に締まりました。


 私は部屋の中を見回します。前の壁にひとつだけ窓があり、学習机が置かれていました。左壁にクローゼットがあり、トイレやシャワー室まであるようです。右側にはひとり用のベット。私の部屋としては十分過ぎるほどの広さですが、お嬢様のお部屋としては少し狭い気がします。


「あの――ここは、本当にお嬢様のお部屋なのですか?」

「違うわ、リッカ」

「あ、やっぱりそうなんですか?」

「さっきも言った通り、ここは私とリッカの部屋よ」

「……」


 思考が追いつきません。


 お嬢様は、とても素晴らしい笑みを浮かべられています。それは、まるで天使のようだと思います。


「でも――ここは、ひとり部屋かと思います」

「そうね」

「ベットがひとつしかありません」


 ひとり用としては少しだけ広めかもしれませんが、とてもふたり用のベットには見えません。

 

「この広さで十分よ。私とリッカも、特に寝相は悪くないのだから、全く問題ないわ。くっついて寝ればいいだけの話よ」


 お嬢様は相変わらず、天使のよう笑みです。


「あの――ここは、ひとり部屋かと思います」


 私は、再び同じ言葉を吐いてしまいます。


「私、リッカと同棲するのが前からの夢だったの!」


 お嬢様は、とても幸せそうです。私は――なにも言えなくなりました。


 


 ・・・



 

 今から話すのは――入学日から、1週間後に分かったことなのですが……。

 

 始めは――何となく変だなぁーとは思っていたのです。私とお嬢様の部屋、といっても――ドアの鍵は私では開けられません。しかし、お嬢様からこの学院では――お付のものは同じ部屋、同じベットで寝るのが普通だと教えてくれました。ですので、そういうものだと思っていました。思っていたのですが――セシリア先輩にかなり、驚かれてしまいました。そして分かったことなのですが、お嬢様の隣の空き部屋はどうやら私の部屋だということです。私は頭が混乱してしまいました。ですので、隣で一緒に話を聞いていたお嬢様に視線を向けてしまいます。


 お嬢様は相変わらず、天使のような笑顔を私に向けていました。


「だったら、何なのかしら? リッカ、何か不満でも?」


 セシリア様は、無言で私の肩に手を置きます。


 私は、自分の部屋を諦めることにしました。

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