第36話 勝利と敗北と

 試合終了の言葉を、王女様は口にしました。


 中の様子をしっかりと見ていたつもりですが、なぜ試合終了となったのかが分かりません。


 結界が解除されました。


 お嬢様は私の方へと歩きだされたため、私は慌ててお嬢様の所まで駆け寄りました。


「この程度の魔法で終わりなど――ありえないわ、アリーシャ!」


 ニーナ様は先ほどまで呆然とご自分の肩を眺められておりましたが、今はこちらを見て睨みつけております。


 お嬢様は面倒くさそうに、溜め息を吐かれました。


「勝利の条件はたったひとつだけよ。それは相手の体に魔法を当てること」

「そんなこと、分かっているわよ! だからって、攻撃でもなんでもない――あんな魔法を当てたぐらいで、勝ったと言えるの? あんたは!」

「そんなの、考えるまでもない。結果はちゃんと出た。私が勝って、あなたは負けたのよ」

「あんた――」

「ニーナさん、私の采配に――何か、不満でもありますか?」

「っ――――い、いえ、何も」


 ニーナ様は、顔を俯かせます。

 

「そうですか、それならばよかった」


 王女様は笑顔で会場全体を見渡します。


「今回の勝利は、アリーシャさんです。皆、盛大な拍手を」


 会場がしんっ、となりました。


 私は慌てて、手を叩きます。疎らにですが、拍手の音が広がり、私は嬉しくなりました。でも――ニーナ様のことを考えると胸が苦しくなります。しかし、ニーナ様はお嬢様のライバルなのであります!


 ですから――仕方がないのだと、自分に言い聞かせます。誰かが勝てば、必ず誰かは負けてしまう――それは、当たり前のことなのですから。


「それでは、引き続きここでおくつろぎください」


 王女様が手を、ぽんっと叩くと、再びテーブルが現れます。そして、私を誘惑する食べ物たちが、再び目につきました。


「それでは、行きましょうか」

「え?」

「食べたいんでしょ?」


 そう言って、お嬢様は私の手を握ります。


「えっと……はい、すみません」


 指摘されてしまうと、とっても恥ずかしくなります。


「別に、恥ずかしがる必要なんてないのよ、リッカ」

「はい、お嬢様」


 私の手を、お嬢様は優しく引っ張ってくれました。




 ニーナ様のことは気にしないようにと、自分に言い聞かせます。しかし、気になってしまい、チラチラと見てしまいました。ネーヴェさんがニーナ様を起き上がらせ、抱き着きます。あ、殴られてしまいました。ニーナ様が歩き出し、ネーヴェさんが追いかけます。そのままお二人は会場から出て行きました。


「リッカ、美味しいかしら?」

「え? あ、はい、お嬢様。すごく美味しいです」

「そう、それならよかった」


 お嬢様は、あまり気にされていないようです。きっと、闘ったもの同士にしか分からない――そんな、なにかがあるのでしょう。それは、絆と呼べるものなのかもしれません。


「あのー、勝手にこの部屋から出ていっても大丈夫なのですか?」

「出ていきたいの?」

「い、いえ、そういうわけではないのですが」

「別に構わないわ。この催しは別に強制ではないから」

「そうなんですか?」

「シオン様の演説が終わったあと、このブレスレットを通じて情報がきたわ。今後の日程――寮の場所や、各施設の場所とかもね。ある程度は制限があるみたいだけど、本日は好きにすればいいらしいわ」

「な、なるほど」

「それでは、ほどよく食べ終えたら、寮に行ってみましょうか」

「はい、そうですね」


 お嬢様は笑顔で頷かれました。相変わらず、天使のような笑顔であります!


「そうよね、リッカだってもう――我慢できないわよね」


 何をですかね!?


 


 この敷地には、学生以外の関係者も含めると100名以上の方がいらっしゃるようです。この学院は最高峰の研究施設、素材、魔導書が揃っており、この国有数の魔法使いも利用されるとのことです。そのため、色んな方たちがいらっしゃるみたいですが、寮までの道すがらに出会ったのはほんの数人だけでした。しかも、皆様はとてもお忙しそうで、私の挨拶は空振りに終わってしまいました。どうやら、あまり邪魔にならぬよう、頭を下げるだけのほうがよさそうだと、私は学習をいたしました。


「安心して、リッカ。あなたの挨拶を無視した奴、いつか必ず――痛い目に合わせてあげるわ」


 そう言って、お嬢様は笑みを浮かべられます。


「や、止めてくださいね!」


 その言葉に、お嬢様は拗ねてしまわれました!

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