第32話 私の心と身体はお嬢様のものです

 王立魔法学院。

 

 国と上級貴族たちが出資し、優秀なものを各地から集めてくる。毎年、入学する生徒はたったの30人ほど。様々な教育を行い、成長の一環として依頼を押し付け、生徒を働かせる。しかし、一番の目的は魔法の研究をさせ、新たな神秘をこの世に具現化させること――だと、お嬢様は仰りました。


 新たな理論を生み出し、その有用性を証明する。在籍期間はたったの3年間。その間に、お嬢様はその目標を達成し、家名をいただくと言いました。それが、どれだけ実現困難なことなのか、私には分かりません。しかし、お嬢様ができると言ったのです。それならば、私はただ――お嬢様を信じ、支え続けるだけなのです。



 学院に入る前、門番の方からお嬢さまはブレスレットを渡され、それを手首につけるよう指示がありました。

 お嬢さまは眉を顰めながらも、大人しく渡されたものを左手首につけました。

 全周ぐるりと白い綺麗なストーンがあしらわれたブレスレットであり、お嬢さまの水色のドレスにすごくお似合いだと思います。

 

 そして、何故か私には黒いシンプルな革製のブレスレットが渡されました。真ん中に小さな白い宝石がついております。御付きの者も必ず身につけないといけないとのことです。


「なるほど、この石から必要な情報が送られてくるわけね」

「え? どういうことですか?」

「今、この石から頭の方へ情報が流れてきた。必要な情報をその都度、送るようね。だけど、リッカの方にはその機能がなさそうだけど」

「そうなんですか? それは残念です」

 

 お嬢様は、私の手首につけた黒いブレスレットを眺めます。


「私以外から手渡されたものを身につけるリッカ――なんだか嫌だわ」

「こ、心はお嬢様のものですから!」


 睨まれたため、私は慌てて訳の分からないことを言ってしまいました!


「それは、本当に心だけなの?」


 お嬢様は、私の耳元で言葉を吐きます。


「か、体もです」

「体も――何?」

「体も――お嬢様のものです」


 私は硬直気味に、言葉を紡ぎます。


「そう、いい子ね、リッカ。ここを卒業したらすぐに別の物を買ってあげる」

 

 そう言って、お嬢様は私の耳たぶを口で咥えました。


「あのー、ここでいちゃつかないでもらえますかね?」


 門番のおじいさんから小言を言われてしまいました……。




 学院の門を潜り、広い敷地に入りました。人の姿は見当たりません。大小様々な建物がたくさん建っており、密集しております。建物と建物の間が狭く迷路のようになっており、すぐに道を見失ってしまいます。だけど、お嬢様は迷いなく歩いていき、とある建物の中へ入りました。


 そこは、集会所でした。広い部屋の中、人が疎らに点在しています。皆がこちらに視線を向けました。その目つきは鋭く、私はびくびくとしてしまい、視線がひとりでに下がってしまいます。お嬢様は気にせず奥まで歩いていき、壁に身体を傾けました。私もすぐにお嬢様の隣で足を止めます。


「遅かったわね、メイド」


 声をかけられ、私は顔を上げます。


 目の前には、昨日の女の子が腰に手をやり立っていました。その後ろにはメイドさんもいらっしゃいます。


「ニーナ様――ですね」

「そうよ、メイド」

「様はつけなくていいわ」

「アリーシャ、あんたがいうセリフじゃないから」

「全く持ってその通りです。メイドの立場でありながら、いずれ呼び捨てにできるのはこの私だけですから」

「あんたは黙っとけ」


 メイドさんは無表情ながら、ショックを受けた感じです。


「まだ、後ろにいるこいつの紹介はしてなかったわね。こいつの名前はネーヴェ。一応、私専属のメイドとなっているわ。勿論、不満に思っているけどね」

「ニーナ様は素直な方じゃないんです。しかし、そこが魅力的かと。しかし、惚れたら駄目ですよ」

「こいつの言ってることは話半分で聞きなさいよ。嘘ばっかりだから」

「え、えっと、ネーヴェさん――で、いいですか?」


 ニーナ様は頷き、ネーヴェさんは親指を上に向け、グーと言ってきました。

 

「で、何の用かしら? 私たちは今、かなり忙しいわ」

「ぼーっとしていただけでしょ?」

「くだらない押し問答をするつもりはないから、さっさと用件を言って消えなさい」

「本当にあんたは――」

「だ、駄目ですよ、お嬢様。ニーナ様はお嬢様と仲良しになりたいんですから」

「違うから!」


 に、睨まれてしまいました!

 

「ニーナ様、私というものがありながら――」

「だから、あんたは黙っとけ。ややこしくなるから!」

「悪いけど、私はあなたと仲良くするつもりはないわ」

「だから、違うっていってるでしょ!」

「なのに、大した用件もないのに話しかけてくる。あなたの行動は意味不明ね」

「やはり、本当は仲良くなりたいんですね!」

「ニーナ様、私だけの愛では足りないと!?」


 ニーナ様は、顔を引き攣らせると――両手のゆびをわなわなと動かされます。


 急に――会場内がざわつき、雰囲気が一瞬で変わりました。


 誰もが壇上に顔を向けています。そこへ、誰かが姿を現しました。数名のメイドさんを引き連れ、美しく長い金髪を揺らし、頭には銀色に輝くティアラ。白いドレスの裾をなびかせ、美しく凛々しい女性が演台の前で止まります。そして何故か、こちらに視線を向け、笑みを浮かべられた気がしました。それは一瞬だったため、私の気のせいかもしれませんが。


「私は学院長の代理であり、この国の第三王女シオンと申します。皆様――よろしくお願いいたしますね」


 お、王女様!?


 彼女は優雅に笑みを浮かべられました。

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