第33話 王女様の登場であります!

 この広い会場の中で、王女様の声はよく通ります。

 

「私はこの学院の運営に携わっております。そのため、皆様には大変期待しているのです。それは、何も私だけではありません。この学院へ出資する方々もあなたたちに期待しております。皆様はご自分のため――そして、この国のため、結果を残してください。その結果に対し、私たちは全力で報いることを約束いたしましょう」


 王女様は両手を広げ、熱を持って語ります。ものすごいキラキラオーラを余すことなく放っています。これが、王家の力なのでしょうか!?


「この学院には、様々な家柄の方がいらっしゃるかと思います。しかし、この学院の中では、家名など捨て去ってください。あなたたちは個人として、この学院の上に立っています。だからひとりの個人として、同じ仲間を愛し、ひとりの生徒として、教師を敬ってください。ここには生まれによる不平等など存在しません。あなたの個の実力を私たちに見せてください。そして助け合い、友情を育んでください。その繋がりは必ず未来へと繋がるでしょう」

 

 10m以上は距離があるのに、存在感が半端ないのであります!


 王女様は私たち全員を見渡し、満足そうに頷かれます。


「皆様に渡しましたブレスレットですが、かならず身につけたままでお願いします。必要なときにその都度、情報を流すようにしていますから。それと、依頼はブレスレットを通じてお願いするかと思いますので」

「その依頼というのは、強制なのでしょうか?」


 前にいる方が、質問を行いました。


「いえ、そうではありません。あくまでも自主性にお任せします。しかし、この学院で何かを成し遂げたい夢があるのなら、断らない方が無難だとは思いますけどね」


 王女様はにっこりと微笑みを浮かべられます。


「それに、決してあなた方にとって不利になることはありません。あなた方が成し遂げたことはブレスレットの魔法石へ点数として蓄積され、その点数により順位付けがなされます。もしも、その点数が伸びない場合、この学院を辞めていただかなければなりません」


 会場がにわかにざわつきます。


「どの期間までに、どのぐらいの点数を集めなければならないのでしょうか?」

「それは秘密です。どのようにして点数が入り、どのぐらい加算されるかも、現時点での点数も、あなたたちには分からないようになっています。そのため、点数など気にせずに日々努力を、日々成長を心掛けていただきますようお願いいたしますね」


 会場がしん、としました。


「他に質問がないようでしたら、私から皆様へのおもてなしをどうぞ受け取ってください」


 そう言って、王女様は手をぱんっ、と叩きます。


 すると、会場のあちこちからテーブルが急に姿を現しました。しかも、とんでもない御馳走が並べられています!


「リッカ、嬉しそうね」

「す、すみません。はしたなかったですよね?」


 私は自分の両頬を押さえます。何だか、恥ずかしくなってきました。


「全く構わないわ。だって、可愛かったもの。だから今すぐ、あなたを食べてしまいたくなったわ」


 そう言って、お嬢様は顔を近づけ、じっと眺めてきます。


「お、お嬢様……」

「って、あんた達、なに変な雰囲気醸し出してんのよ!」


 ニーナ様は顔を真っ赤にして怒ります。


「す、すみません」

「謝る必要なんてないわ、リッカ」

「だから――あんたが言うセリフじゃないから、それは!」


 再び、怒られてしまいました。


「だけど、ようやく分かったわ」


 先ほどの怒りが嘘だったかのように、笑みを浮かべられます。


「メイド、あんたの名前はリッカね」


 そう言って、ニーナ様は私を指さします。


 お嬢様は私を抱きしめ、ニーナ様に視線を向けますと、舌打ちを鳴らしました。


 こ、怖いですから、お嬢様。


「えっと、その――申し遅れました。アリーシャ様の専属メイドであるリッカと申します」

「そう、リッカ。これからよろしく頼むわ」

「あなたに、名前呼びを許可した覚えなどないわ」

「なんでそんなもの、いちいちあんたに許可を貰わないといけないわけ?」

「なんと言われようと、名前を呼ぶことも、近づくことも許さないわ。なにせあなたは、リッカにとって害悪にしかならないのだから」


 ニーナ様がわなわな顔になっております!


 このままでは駄目なのであります。だってせっかく、お嬢様と仲良くなりたい方が現れたのに、このままでは仲違いしてしまいそうです!


 ここは、お嬢様のためにも――厳しくいかねばなりませんね!


 私は心の中でめちゃくちゃ気合を入れました。

 

「お、お嬢様、駄目ですよ。そのようなことを言ってはいけません。私の知ってるお嬢様はもっと器の大きい方のはずです。メイド一人の名前を呼ばれようとも、多少近づかれようとも、気にせずにもっとどっしりと構えてください」

「り、リッカ、それは――」

「言い訳なんて聞きたくありません。そんなお嬢様は――」


 私は昔、ミオさんに教えてもらった――とっておきの言葉を思い出します。


「――嫌いに、なってしまいますよ?」


 お嬢様の顔が、今まで見たこともない表情となり、ビクッとしてしまいました。


 私からゆっくりと身体を離されますと、お嬢様はニーナ様と向き合います。


「あなたに――リッカの名前呼びを許し、少しだけなら近づくことを許します」

「なんだか、血の涙でも流しそうな雰囲気ね」

「……言っておくけれど、リッカは私の婚約者よ」


 お、お嬢様!? その話は、秘密にすると約束したじゃないですか!


「婚約?」


 ニーナ様は半信半疑な目で、私とお嬢様を交互に見ます。


「ニーナ様。私たちも今すぐ婚約いたしましょう」

「するわけがないでしょ」

「な、なんと!」

「驚く意味が分からないんだけど」

「しかも、私とリッカは心だけでなく――すでに身体も繋がっている」


 お、お嬢様!?


「ニーナ様、私の身体はいつでも準備万端ですよ?」

「あんたはちょっと黙っててくれる?」

「もうお友達が出来たのですか? 羨ましい限りですね、アリーシャ」


 後ろから声がかかり、振り向きます。


 なんと、王女様がいました! 可愛らしい数人のメイドさんを引き連れて、私の目の前におります。


 もしかして、これは夢なのでしょうか?


 私は自分の頬をつねりました。


 あ、すごく痛いです!

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