第27話 私と同じメイドさんであります!

「ニーナ様、ただいま戻りました」


 メイドです。私と同じメイドであります! 私と似たような白いカチューシャを頭につけ、丈の長い黒いワンピースに白いエプロン。フリルは私のより少なめで何だか上品な感じがします。

 身長はお嬢様より高そうで、おそらく170cm以上はありそうです。

 珍しい銀色の髪は肩までの長さ。切れ長な銀色の目は少し冷たい感じがして、ちょっと怖そうと思ってしまいました。そんなことを思ってしまった私は最低なのであります!


「早かったじゃない。窃盗犯はちゃんと衛兵に引き渡してくれた?」

「当然です、ニーナ様。ちょうど近くにいた衛兵へ押しつけてきました」

「そう、よくやったわ」

「それよりも、私の聞き間違いならよいのですが――」

「何? 何かあった?」

「ニーナ様がそこのメイドを口説かれていた気がするんですよねー」


 そう言って、メイドさんは私の方に視線を向けました。表情は何も変わっていないのですが、何だか睨まれている気がします!

 お嬢様もそう思ったのか、私をさらに後ろに下がらせ、私を守るようにして私たちの前に立ち塞がります。

 

「本当にあんたは地獄耳ね」

「それは当然です。どれだけ遠く離れていようとも、私は常にニーナ様のお声を聞くため集中しておりますから」

「いつも無表情で馬鹿なことを言うのは止めて欲しいんだけど」

「馬鹿なこと? 私は常に真剣ですが」

「ならなおさら駄目じゃない」

「それよりも、ニーナ様の本意をお聞かせください。あの女をニーナ様のメイドにするおつもりですか?」

「いい子そうだし、魔法の適性もある。何より、アリーシャのお気に入りっぽいしね」

「ニーナ様――私という存在がいながら、他のメイドに手を出すおつもりですか? 私の身体だけでは満足できないと?」

「言い方! その言い方は勘違いされるから止めなさい」

「どう勘違いされると言うのですか? 私にはさっぱり分かりません。ですので、ニーナ様――教えてください」

「そ、それは……」

「早く言ってください。その可愛らしいお口から、さぁ」


 女の子は顔を真っ赤にさせました。そんな彼女にメイドさんは詰め寄ります。無表情なのに、何だか笑っているように見えるからなんだか不思議です。


「あんたがそんなんだから、まともなメイドが欲しくなるのよ!」

「な、なんと」


 無表情なのですが、すごくショックを受けたように見えます。


「もう、行っていいかしら? なんだか馬鹿らしくなってきたから」

「駄目に決まってんでしょ!」

「それなら、早く用件を伝えて消えなさい。そうしたら、先ほどの戯言は忘れてあげる」

「……本当、腹が立つわね――あんたは」

「いいから、早く要件を。――馬鹿なら仕方ないけど」


 女の子は顔を引きつらせますが、すぐに表情を落ちつかせます。


「私はベルエール家の当主が三女、ニーナ。あなたと同じく、魔法学院へ入学するわ。つまり、あなたは決して一番にはなれないということ。私という壁が存在する以上はね」


 お嬢様は鼻で笑われます。そのため、私はヒヤッとしました。


「それは――挑発しているつもり?」

「ただ馬鹿にしただけ。そんなことも分からない?」

「この――」

「ニーナ様」

「わ、分かってるわよ。こんなところで、喧嘩をふっかけるつもりはない」


 そう言って、女の子は静かに息を吐きます。

 

「……確かに、あんたの魔力は飛び抜けて優秀だということは認める。だけど、ただそれだけよ」


 お嬢様が眉を顰められます。


「私が、魔法は魔力だけではない――ということを教えてあげる。あなたの敗北とともにね」

「弱い犬ほどよく吠える、とはまさにこのことね。まずは私に顔と名前を憶えて貰うよう頑張るといいわ。私、言葉だけの人間には興味がないから」

「……その顔を歪ませる日が今から楽しみね。そして、そこのメイドを私のものにして、可愛がってあげる。あんたの目の前でね」


 お嬢様は声を出して笑われます。それを見て、女の子は顔を引くつかせます。この笑い方は――決して馬鹿にされているわけではなく、激おこの証なのであります!

 

「できるといいわね」


 お嬢様の言葉に、女の子は舌打ちを鳴らします。


「もう、行くわよネーヴェ。本当……癇に障る」


 そう言って、女の子は背を向けて歩き出します。しかし、メイドさんは動かず私の方をじっと眺めたままです。


「ネーヴェ?」


 女の子が足を止めます。


「そこのあなた」


 そう言って、メイドさんから指をさされます。


「自惚れず、無駄な夢は見ないように。ニーナ様をペロペロし、ペロペロされるのはこの私だけ」

「そんなこと、させたこともさせるつもりもないわよ!」

「な、なんと」

「なんとぉ、じゃないわよ、この馬鹿メイド!」


 背の低い女の子に、背の高いメイドさんは引きずられるようにして、人混みへと消えていきました。


 お嬢様は女の子と同じように、舌打ちを鳴らしたあと、しばらく彼女が消えた方を眺め続けます。私はというと、お嬢様を刺激されないよう、息を潜めております。


 お嬢様がこちらへ振り向いたかと思うと、言葉もなく私の手を掴んでどこかへ向かわれます。かなり、早足気味で。


「お、お嬢様?」


 へ、返事をしていただけません!


 くらいくらい路地裏を進んで行きます。足を止められると、私の方へ振り返ります。手を引っ張られ、私の背が壁に押し付けられました。


「お、お嬢様?」


 返事もなく、私をじっと眺めます。そして、お嬢様の顔が近づき――私に口づけをしました。

 

「な、何を?」

「刻みたかったの。リッカが私のものだという証を」

「そんなの――いつもなされているじゃないですかぁ」


 私は、恥ずかしくなってしまい、顔を伏せました。なのに、お嬢様は意地悪です。私の下顎に指を滑り込ませ、顔を上げさせます。は、恥ずかしいのに、逃げさせてくれません!


「足りない……ぜんぜん、足りないわ、リッカ。あの子のせいで」


 そう言って、お嬢様は私の心だけでなく――唇まで奪いました。

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