第26話 お嬢様のライバル登場?
りんご飴をお嬢様が食べ終えたとき、私はまだ半分近く残っております。
「別に、慌てて食べなくても構わないわよ」
「は、はい。ありがとうございます」
とは言え、気持ち焦ってしまいます。ミオさんにも言われましたが、私はどうやら食べる速度が遅いらしいのです。私としては、とてもそんなふうには思っていないのですが……。
私が食べ終えたタイミングで、叫び声が起こります。
「せ、窃盗よ!」
え? え!?
その言葉に、私は"あわあわ"としてしまいます。
私たちの目の前を大きな男の人が全速力で走っていきました。手には大きな鞄を抱えています。女の人がその男の人を指差しました。
「誰か、その男を捕まえて!」
私はその言葉を聞き、慌てて立ち上がります。しかし、お嬢様に手を掴まれてしまいました。
「リッカ、何をするつもり?」
「え? えっと、追いかけないと」
私の頭の中はパニクっています。
「私たちには関係のない人間たちよ」
「そ、それでも、あの人が困ってますよ?」
「あの人間はただ叫んだだけよ。自分で追いかけようともしない。何故だか分かる?」
「い、いえ」
「危険だからよ。それが分かっていながら、他人に救いを求める。それって、最低じゃないかしら?」
「で、でも――」
「でも、もないわよ。私は何度も言ったわよね? 危険なことはしないと」
それを言われると――何も言い返せません。
「それに、もう相手は見えなくなったわ」
私は辺りを見回しますが、確かにあの男の人は人混みに紛れて見えなくなりました。しかし、叫んでいた女の人の座り込んだ姿が見えます。
「そ、そんなに、落ち込まなくてもいいじゃないの。――あ、ほ、他に食べたいものはない? 買ってあげるから」
お嬢様は笑顔を私に向けてくださいます。しかし、今は何かを食べたい気持ちにはなりません。
「大丈夫です、お嬢様。それよりも、物わかりの悪い私をお許しください」
「ゆ、許すに決まっているわ、そんなの!」
私たちの隣に、急に誰かの気配がしました。
「自分のメイドを悲しませるなんて、あんたは無能な主人のようね」
目の前に、女の子が立っており、先程の男の人が抱えていた鞄と同じものを持っています。
金髪をツインテールとしており、勝ち気そうな目は美しい緑色。少し丈の短い黒のワンピースは快活そうな彼女にすごくお似合いだと思います。お嬢様より少しだけ背が低く、とても可愛らしい方であります。
「……誰かしら? あなた」
「私はあんたを知っているわよ、アリーシャ。だけどあんたは私を知らない。その事実は恥じるべきことよ」
「知る必要を感じないわ」
お嬢様の言葉を聞き、一瞬だけとはいえ――ものすごい顔となりました。怖かったです!
「……少し、待ってなさい。私には少しやることがあるから」
そう言ったあと、女の子は小さく何かを呟くと、一瞬で姿が――
「き、消えてしまいました!」
「落ち着きなさい。魔法であの女のところへ移動しただけ」
「あの女?」
「窃盗だと騒いでいた女のところ」
女の子は、座り込んでいた女性を起こし、手に持っていた鞄を渡していました。
ここからでは何を話しているかは聞こえませんが、女性が女の子に頭を下げ感謝しているのが分かりました。
ここからでは表情が分かりませんが、きっと喜んでいると思います!
本当に、よかったです。
女の子がこちらに振り向いたかと思うと、また姿を消しました。そして、すぐに私の隣に移動したことが分かりました。
す、すごいです。
「待たせたわね」
「別に、待っていないわ」
「あのあの、鞄を取り返してくださってありがとうございます!」
「別に、あんたには関係ないと思うけど?」
「それでも、嬉しかったんです! だから、ありがとうございます!」
何故か、女の子にじっと眺められます。
「へー、あんた、いい子ね。魔法の素質もあるようだし、私の従者とならない? そんな女よりは優遇してあげることを保証してあげる」
「あなた――死にたいの?」
お嬢様は私を後ろに下がらせます。
「普通、そこまで言う? あんた、頭がおかしいんじゃないの? その子の苦労が偲ばれるわね」
「心配しなくても、私は誰よりもこの子を大切にしているわ」
「へー、やっぱりあんた頭がおかしいわね。そんな馬鹿なことをどうどうと言うんだから。それよりもメイド、あんたの名前はなに?」
「え? 私は――」
「あなたに名乗る名前などないわ」
女の子は急に笑いだしました。
「本当に、あんたは頭がおかしいわね。いいわ、最高だわ。ますます、そのメイドが欲しくなってきちゃったじゃない。そのメイドを私のものにしたら、あんたは悔しさのあまり、泣いてくれるのかしら?」
お嬢様から殺気のようなものが漏れ出したとき、女の子の後ろに女性が現れました。何だか、空から降ってきたような気がするのですが、気のせいでしょうか? それにしても驚きです。何せその女性は私と同じくメイドさんだったからです!
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