第22話 旦那さまと奥さまが帰ってきました!

 セリーネ様が帰られてから、数週間の時間が流れます。


 そして――本日はなんと、旦那様と奥様が帰ってこられる日です。それは皆が待ち望んだ日。だって私たちは、お二人のことを心から尊敬しているからです。


 日が沈みかかった頃――私たちは、玄関でお二人をお待ちします。今か今かと、どきどきしております。お嬢様も珍しくそわそわとしており――その仕草に、私はきゅんとしてしまいました。本当に、お嬢様は天使のようなお方です!

 

 時間を確認しました。今頃――執事長が門でお二人をお迎えし、こちらへ向かっているころかと思います。

 

 扉が開きました! 旦那様と奥様が笑顔で入ってこられます。私たちは気持ちを込めて頭を下げ、声を出します。

 お二人は手を上げて、我々の気持ちに応えてくださいます。


「お帰りなさいませ。お父様、お母様」


 お嬢様は私の隣で、恥ずかしそうにしております。本当は、今すぐにでも抱きつきたいのだと思います。それでも、それを我慢なされるお嬢様――立派です!


「ただいま、アリーシャ」

「いま帰ったわ、アリーシャ」


 お二人はお嬢様に近づき、優しく抱擁されます。そのお姿を見て、私は涙腺が崩壊しそうなります。しかし、なんとかそれをこらえてみせます。お嬢様の専属メイドであるこの私が、そのような無様な姿を晒すわけにはまいりません! 必死に太ももを抓ります。正直、めちゃくちゃ痛いのであります!


「アリーシャのこの笑顔は君のおかげだよ、リッカ。本当にありがとう」


 あ、それは駄目ですよ。卑怯です。だって、そんな言葉を聞いてしまったら、泣いてしまうじゃないですか!



 

 ***



 

 旦那さまと奥様は長旅でお疲れです。ゆっくりと休んでいただき、その間にお食事の準備に戻ります。コック長はやる気まんまんです。いつも全力で料理に携わっておりますが、本日のコック長は一味違うようです。何せ、ご自分でそう仰られていたので間違いはないはずです。




 食卓にコック長の自信作である料理たちを並べていきます。

 部屋の奥、中央の席の右側に旦那様が座り、左側には奥様。左斜め前の席にお嬢様がお座りになります。

 執事長は旦那様の隣に、メイド長は奥様の隣、そして私は恐れ多くもお嬢様のお隣に立たせていただきます。

 少し離れた場所でコック長は固唾を呑んで見守っております。大丈夫です、コック長の気持ちはきっと伝わるはずですから。


 料理を口にした後、旦那様と奥様は笑みを浮かべられるとお互いの顔を見つめ、何度か頷き合います。


「やはり、我が家の料理は凄く美味しい。私たちにとって、この味に勝るものはこの世界中を探したってきっとないだろうね」

「えぇ、わたくしもそう思いますわ」


 お二人のお言葉を聞き、コック長が泣き崩れてしまいました! そのお気持ち――痛いほど分かりますよ、コック長!


「……少し、大げさな気はしますが」

「アリーシャも、この家を離れたらきっと分かるようになるよ」

「分かりたくはないですが――」


 顔を伏せていたコック長が顔を上げ、悲しげな目でお嬢様を見上げます。


「しかし、この味を美味しいと感じる気持ちはよく分かります」


 お嬢様の言葉に、コック長は口元を押さえると声を押し殺して再び泣き始めました。お気持ち、痛いほど分かりますよ!


 


 お食事が終わった後、居間でご家族の団らんの時間となります。

 幸せな時間はすぐに過ぎてしまいます。


「お父様、お母様、後で大事なお話があります」

 

 お部屋に戻る時間となった時、お嬢様はそのように仰りました。


「それは、ここで話す内容ではない――と言うことかな?」


 お嬢様は頷かれます。


 私はそれを眺め、正直な話――冷や汗が流れ始めました。まさか本当に――あの話をされるおつもりですか?


「分かった。それでは、今から私の部屋で話そうか」

「はい、それでは後でリッカと伺います」

「リッカも来るんだね」

「はい、そうです。お父様」

 

 そう言ってお嬢様はソファから立ち上がりますと、私を見てほほ笑みます。


 これはやばいです。足元まで震えてきました!

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