第20話 セリーネ様とのお別れの日なのです!

 セリーネ様がこのお屋敷へ来られてから、1週間などあっという間に過ぎてしまいました。その間、本当にたくさんのことを教わりました。感謝しかありません。ただ、色々としてくださったお話は難しくあまり理解できておらず、申しわけない気持ちとなるのです……。


 時間は午前中。

 

 セリーネ様が帰られます。お屋敷の玄関で、執事さんとメイドさんが集まり、心からのお見送りをしました。そのあと、お嬢様と私は門までセリーネ様に付き添います。


「リッカちゃん、これからもマナの流れを感じ、コントロールできるように頑張ってね」

「は、はい。ありがとうございます!」

「君たち感覚派は常にマナに覆われている。だから、私たちと違って、基礎的なことをマスターすれば、十分自分の身を守ることができるわ。あなたたち感覚派は、自分の肉体を強化し、身体能力を上げることに特化しているからね」

「なるほど、かなりお得なんですね」

「そう、お得なのよ」


 そう言って、セリーネ様は笑います。


「それに、基礎的なことをできるようになればアリーシャと一緒に授業を受けられるんだから」

「え? そうなんですか?」


 それは、初耳です。


「セリーネ様――それ、本当ですか? 基礎的なことができないと、一緒に授業が受けられないのですか?」

「何よ、アリーシャまで知らなかったの?」


 お嬢様は私の方に振り向かれます。


「リッカ、これからは毎日私が指導するから」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「どーりで、非協力的だったわけね」

「セリーネ様も、本当に人が悪い。何故もっと早く言わなかったのですか!」

「私が悪いの!?」




 ***




 門番の方が、大きな門を開いてくれます。


「世話になったわ」


 セリーネ様は恐れ多くも、何故か私の方を見てそんなことをおっしゃいました。

 

「そんな、それはこちらの台詞です! 私はセリーネ様からただただ恩を受けただけです」


 私は慌てて手を振りました。普段のお世話も、私ができれば良かったのですが……。


「リッカが気にすることではないわ」

「それは私の台詞よ、アリーシャ。君はもっと気にするべきよ」

「心配しなくても、ちゃんと気にしています。それよりもセリーネ様、私たちが王都へ行くそのときは又、ご厄介になります」

「……まぁ、厄介になるという気持ちがあるだけ、まだましかしらね」

「それにしても――外にでるのは、本当に久し振りですから……少しばかり緊張してしまいますね」


 そのときは、いつも以上に気合を入れねばなりませんね!


「どれぐらい出ていないのかしら?」

「そう――ですね。もう1年近くはこのお屋敷から出ておりません」


 私の言葉を聞き、セリーネ様はものすごい表情をされます。

 

「出てないの? この屋敷から? 本当に? 街の外ではなく、この屋敷から1年間もでてないの?」

「は、はい。この屋敷からです。この街より外はもう――10年は出ていません」


 やはり、おかしいのでしょうか?


 私がこのお屋敷をでて街に出るのは年に数回あるかどうかです。

 

「何で? この屋敷から出なかった理由はなんなの?」

「お嬢様が、街は危険だとおっしゃいますから ……」


 セリーネ様はお嬢様の方に体を向けます。


「アリーシャ、この屋敷から一歩も出さないなんて――それ、監禁じゃない。屋敷から中々ださないとは思ってたけど、まさかそこまでだとは思ってなかったわよ」

「人聞きの悪いことを言わないでください。リッカに何かあったらどうするのですか」

「王都に比べたらこんな辺鄙な街で一体何が起きると言うのよ。護衛をつけてあげればいいだけでしょ」

「何が起きる? そんなの決まってます。もしもリッカの隣に私がいなければ、変な人間どもから性的に見られ、誘拐されます。他の人間などに任せられる訳がありません」

「そんなことをしでかそうとする人間なんか、君ぐらいなものよ」

「そんなことはありえませんよ。ふざけているんですか? それに私も、ほとんど屋敷から出ません。セリーネ様以外の案件で外に出るのは、月に何度か学園に通うときだけです。むしろ出たくありません。セリーネ様に王都や外へ連れだされるのも本当は苦痛以外のなにものでもありません。リッカが私の側にいてくれれば――それだけでいいのです」

「そんな馬鹿なことを堂々と言う君の神経を疑うわ。昔、言ったわよね。リッカちゃんには自由にさせていると。これのどこが自由なの? 君の考えにリッカちゃんを巻き込むのは止めなさい」

「そんな言い方は止めてください。私は誰よりもリッカのことを考え、リッカのことを大切に思っています」

「言っとくけど、君は異常よ」

「私が――異常?」

「何よその顔は。自覚がないとか――これはもう重症ね。リッカちゃんは外に――この屋敷から出たいとは思わないの?」

「あ、いえ。私も、お嬢様が側にいてくれればそれだけで満足ですので」


 セリーネ様は、じっと私を眺めたあと、ため息を吐かれます。


「異常なのは、二人共ね」

「セリーネ様こそ、自分の考えを私たちに押し付けないでください」

「これは――頭が痛いわね。そんなんで向こうの寮生活、まともにいくとは思えないけど?」

「特に問題ありません。私が実力を示す限り他の人間どもに文句など言わせませんし、特に関わるつもりもありません」

「協力することが大切なのよ。どんなに実力があろうとも、ひとりでは決して生きてはいけないのよ。特に、君が目指そうとしている世界はね」

「問題ありません。だって私には、リッカが側にいるのですから」

「そう言う問題じゃないんだけど――まぁ、どうせいつか痛い目にあって気付くんでしょうけど」

「そんなことにはならないかと思いますが。そう言うセリーネ様こそ、いつも一人で行動しているように見えますが? 特に派閥を広げようともしていませんし」

「確かに、派閥を広げるつもりは今のところないけど、私はちゃんと他の派閥の人間と友好関係を築き、協力しあっているわよ。一人で行動しているように見えても、私は多くの人間と関わり、助けられている」

「そうですか。それでも、私は特に必要性を感じません」


 その言葉を聞き、セリーネ様は再びため息を吐かれます。


「本当……君を見ていると、昔の自分を思い出して嫌になるわね」

「何ですか、その失礼な話は」

「君の方がよっぽど失礼だと思うけどね!」

「そうですか?」

「首を傾げるな。……とにかく、気が変わったわ。今から街にでるから」

「そうですか、好きにしてください」

「どうぞ、お気をつけください」


 私は頭を下げます。


「何を言ってるの、あなたたちも一緒によ」

「は?」

「え?」

「仲良く、ユニゾンしないでくれる?」


 私とお嬢様は顔を見合わせます。


「ほら、早く行くわよ」


 セリーネ様に背中を押され、私たちは急遽、街へと赴くこととなりました。

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