第17話 私はお嬢様の苦しむ顔など見たくないのです

 お嬢様の杖が芝生に落ちると形をなくし、消えてしまいます。そして、お嬢様が膝をつかれました。そのお姿を見た瞬間、私は考える前に走り出してしまいます。


 私はお嬢様の前で、膝をつき肩に手を置きます。顔から汗が滴り、息も絶え絶えとなっております。こんな余裕のなさそうなお嬢様を見るのは初めてであり、心配のあまり胸が苦しくなりました。

 反対に、セリーネ様は落ち着いたご様子です。


「お、お嬢様、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫に、決まってるでしょ」


 とてもそうは見えないのですが、下手なことは言えません。とても辛そうに見えます。ただの疲労にはみえません。――それなのに、私はただただお嬢様を見守ることしかできません。それをどれだけ辛いと感じても、お嬢様には何の影響もありません。辛いと嘆くだけでは――誰も救えない。お嬢様の苦しみ全てをどうか私に――お与えください。私は願います、願い続けます。目を閉じて、イメージしました。その瞬間、私とお嬢様が繋がった感覚――そのあと、急激な脱力感に襲われました。


「……リッカ?」

「リッカちゃん、止めなさい!」


 私の体の中にある何かが枯渇した――そう認識した瞬間、意識が――




 ***



 

 くらい、くらい。


 誰かの泣く声。


 分からないはずなのに、分かります。


 きっと、昔の私。


 この屋敷に来る前、私は罪を犯しました。


 決して、許されない罪。


 ――妹の後を、私はすぐに追うべきだったのです。


 なのに、震えてました。


 たったひとりで。


 守ると誓った――妹を残して、私はひとりで震えていました。


 旦那さまは、私は何も悪くないとおっしゃいました。


 でも――本当にそうでしょうか?


 私はもう――自分のためには生きられないと思いました。わたしは――願い続けます。誰かのために生きることを。


 だから、私は旦那さまのために生きると誓いました。


 でも、お嬢様を見て私は――彼女のために生きたいと思いました。


 そして――いつの間にか、お嬢様の幸せが私の幸せとなります。お嬢様のためは――全て私のため。


 それで、本当にいいのでしょうか?


 お嬢様は言ってくださいました。


 私の幸せが、お嬢様の幸せになると。


 そう――言って下さったのです。


 だから、私は私の幸せを望んでも――いいですか?


 ねぇ――いいかな?


 私が私の幸せを望んでも。

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