第16話 私とマナと魔法と
セリーネ様の人差し指と繋がった額に熱がこもります。
「オルティス家の当主、セリーネが今ここに承認する。世界の守り人よ、我が名を通じて応えたまえ。我々は世界と共にあるのだから」
その言霊がこの世界で形となったとき、額から青白い光が灯ります。それが体全体を包んだとき、体内に溶けて消えた感覚。私の身体全体を覆う温かな存在がマナだと、私は理解できないながらも、それはそういうものだと認識しました。
「リッカちゃん、分かるかしら? 君の身体の周りにマナが集まっていることを」
「分かりません。分かりませんが、心が温かくなります。この正体がマナならば――世界はとても優しいんですね」
「凄いわね。そのような認識――私にはとても持てそうにない」
「なぜですか?」
「なにせ私は――世界を、冷たいものとして捉えている」
「それは――」
「リッカちゃん、イメージしなさい。体を覆うマナが君を守る盾となると」
「盾――ですか?」
「そうよ。マナが守ってくれる。だから目を閉じて想像しなさい。マナが形となって、自身を守る姿を」
私は言われた通り、目を閉じて体を覆う何かに神経を集中します。
「リッカちゃん、もう大丈夫。目を開けていいわ」
目を開けると、青白い光が私の身体全体を覆い、火のように揺らめいています。それは私を守ってくれているのだ――そう意識した瞬間、光が拡散して消えてしまいました。
「す、すみません」
「何を言ってるの、十分すぎるぐらいよ」
褒めてもらった気がして、嬉しくなってしまいました。そのため、つい顔がにやけてしまうのを止められそうにありません。
「リッカ、私の言葉以外で何を嬉しそうにしているの。私を嫉妬させて喜んでいるわけではないのでしょうね」
「ち、違いますから!」
だらしない――と、怒られるのならまだ分かるのですが、予想外のことで怒られてしまいました。とはいえ、気をつけねばなりませんね!
「アリーシャ、君にも指導してあげるわ。模擬戦でね。だから、早く準備なさい」
「は? 何故――」
「何故も何も、ここへ来た一番の目的はアリーシャの実力を確認するためよ」
「――どういう、意味でしょうか?」
「不満そうな顔をしないの。アリーシャは私の派閥の代表としてあの学院に行くのよ? 君の実力次第では、私の顔に泥を塗ることになる」
「そんなことになるとは思えませんが?」
「そう――それは素晴らしい自信ね。それなら、その自信を裏付けるだけの実力を見せて頂戴」
「……別に、今でなくとも」
「ああ、ごめんなさい。確かに、配慮が足りなかったわ。愛しのリッカちゃんの前で恥はかけないものね。私とアリーシャの実力差を見たら、リッカちゃんの心は私になびいてしまうもの。そりゃー怖いわよねぇ」
セリーネ様の言葉に、お嬢様は笑みを浮かべられます。しかし、その笑顔は超激おこの証であります!
「……リッカ、離れていなさい」
お嬢様の手に、いつの間にか私の身長より長い杖が現れています。
「そうね、その方がいいわ。リッカちゃん、少し離れた場所で私がアリーシャと遊ぶところを眺めておくといい。だけど、ただ見るだけではなく――目にマナを集めることを意識してみて」
「それは、どうしてですか?」
「本来見えないはずのものが見えるようになるからよ」
「は、はぁ」
「まだ、できなくても構わないわ。ただ、少し意識してみて」
「分かりました。では、少し離れますね」
そう言って、私はいそいそと二人から離れます。
「リッカちゃんが離れ終えたら、私が結界を張るわ。アリーシャの結界では私の魔法に耐えられない。それでリッカちゃんがけがをしてしまったら目も当てられないからね」
セリーネ様の前に青い水晶玉が現れ、それはふよふよと宙に浮いております。
「……余裕ですね」
「その答えは、前にも言ったかと思うけど?」
お嬢様が急に笑いだしました。
――何だか、怖いです。
ずいぶん離れた後、私は二人の方へ振り返ります。そして、目にマナが集まるよう意識しました。そうしたら、微かに何かが見えたような気がして、私は目を細めます。一瞬、お二人の周りに四角いぼやけた大きな箱が見えたかと思うと――目に集まったマナが拡散してしまいました。すると、見えかけた何かが何も見えなくなってしまいます。それから何度か目に力をいれたのですが、最初のようには上手くいかないまま、お嬢様の頑張っている姿を眺めるだけで時間だけが過ぎていきました。
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