第14話 私はお嬢様の力となりたいのです!

「一体――どう言うことでしょうか?」

「嫌ねぇー、そんな怖い顔して」

「御託はいいので、さっさと答えてください」


 お嬢様の言葉に、セリーネ様はため息を吐かれます。


「本当、面白みのない子ねぇー」

「いいから、早く本題を話してください」


 セリーネ様は肩をすくめられます。


「王都で、アレックス君と少しだけ話をしたのよ。そこで聞いたの。今の状況と――リッカちゃんのことをね」


 そう言って、セリーネ様は私の方に視線を向けられます。


「リッカをエッチな目で見ないでください」

「だからそんな目で見てないわよ。そっちこそくだらないことで無駄に話を止めないでくれる?」

「くだらない? 今のどこがくだらないと言うんですか!? 大事なことですよ!」


 お嬢様はテーブルを握り拳で思いっきり叩きつけたため、カップが揺れてしまいます。そのため、ヒヤッとしてしまいました。


「……アリーシャって、こんな面倒くさい子だったっけ?」


 セリーネ様は私に尋ねてきます。しかし、私はどう答えものか分からず、曖昧に笑うほかありません。


「私に承諾もなく、リッカに話しかけないでください!」

「え? そこまでなの?」

「あ――」


 小さく声を上げたあと、お嬢様は口元に手を置いて一度だけ咳払いをします。


「少々、本音が漏れてしまったようですが、気にしないでください」

「そんな闇深い発言はスルーできないのだけど?」

「それで、リッカにいったい何の用なんですか?」

「なるほど、ゴリ押しで行くわけね。まぁ、いいけど。――簡単に言ってしまえば、リッカちゃんに魔法を教えてあげようと思ったのよ」


 わ、私が、魔法を使う姿――とても想像できません。

 

「……何故、そのような思考になるのかが分からないのですが」

「私の認識が間違いなければ、リッカちゃんはとんだ世間知らずよ?」


 そ、そんなことはないかと!


「――だとしたら、何ですか?」


 お嬢様、否定していただけないのですか!


「私はその責任の一端が、アリーシャにあると考えている」

「……」

「リッカちゃんに頼れる家族はもういない。そんな中、こんな小さな世界に閉じ込め続ければ――そりゃーそうなるわよね」

「だとしたら何ですか? リッカは必ず私が守ります。だから、問題ありません」

「あなたひとりで守りきれるほど、外の世界は狭くないわよ。クレイワース公爵家の権威など、もはや形式上に過ぎないのだから」


 え? それはどういう――意味でしょうか?


「セリーネ様」


 お嬢様はお師匠様を睨みつけます。


「いずれ分かることよ。本当にリッカちゃんのことを大切に思っているのならば、最低限の力は与えるべきよ。私が彼女に会ったのはほんの数回だけど、魔法の素質があることはすぐに分かったわ。それを、君が気づいていないとはとても思えないのだけど?」

「……」

「怖いの? リッカちゃんが、自分で自分を守るすべを持つことが」

「違う!」

「じゃあ、いいわよね。リッカちゃんに魔法を教えても」

「それは――」

「リッカちゃんも魔法を使えた方がいいと思わない? その力は――君を救う力であり、アリーシャを助ける力となる」

「お嬢様をですか?」

「そうよ」


 セリーネ様が頷くのを見たあと――私はお嬢様に視線を向けます。お嬢様は面白くなさそうな表情をなさっております。私が――魔法を使うことを望まれている訳ではないのだと思います。それでも私は――お嬢様を見つめて、言葉にします。自分の気持ちを。


「魔法を教わりたいです」

「……それは、何故?」

「お嬢様の力となりたいからです」

「そう――」


 お嬢様は席から立ち上がると、私に近づき、私を抱きしめます。


「リッカはいつだって――私のためね」

「当たり前ですよ、お嬢様」

「そうね、確かに――当たり前だったわ」


 そう言って、お嬢様は私から体を離し、私を見つめます。身体が離れても、心は繋がったまま――そんな気がしました。


「いつまで見つめてるつもりなの?」

「あぁ、まだいたんですか」

「いるに決まってんでしょーがぁ」

「分かりました。リッカに魔法を教えることをよしとします。しかし、私がいない間は声をかけることを禁止とします。そして、教えるときも1m以上は絶対に距離を開けてください」

「どんだけ独占欲が強いのよ、君は」

「そう言うわけではありません。これも全てはリッカを守るためです」


 セリーネ様は深いため息を吐かれます。


「普通、私に魔法を教えてもらえるとなれば泣いて喜ぶものなんだけど?」

「わ、私、泣くほど嬉しいですよ!?」

「本当、いい子ね〜リッカちゃんは」

「だから、1m以上は近づかないでくださいと言ったじゃないですか」

「冗談じゃないんかい」

「何を馬鹿なことを言っているんですか。冗談のわけがありません」

「いや、普通に考えて冗談ですまさないとやばいわよ」

「そんなことはないかと思いますが」

「お、お嬢様、私も流石にそれは――難しいかと」


 お嬢様が、私の方をじっと眺めてきます。


「……リッカには決して触れないでください。セリーネ様、それを守れますか?」

「分かった。分かったわよ。絶対にリッカちゃんには触らない。――それでいい?」

「……真剣味が感じられないのですが?」

「本当にしないから、もう勘弁して! 本気で話が進まないから!」

「お、お嬢様……」

「……分かりました」


 お嬢様は渋々といった感じで――ようやく頷かれました。

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