第13話 お嬢様のお師匠様がやってきました!

 今日は、お嬢様のお師匠――セリーネ様がお屋敷の方に来られる日です。

 私はとてもわくわくしているのですが、そのような素振りを見せれば、再びエッチなお仕置きが待っているため表情には気を付けております!

 


 お嬢様と一緒にお庭へ出たあと、ポケットの中にある懐中時計で時間を確認します。

 

 もうそろそろであります!


 やばいです、凄くどきどきしてきました!


 お嬢様がお世話になっている方なんですから、絶対に粗相をするわけにはまいりません!

 

 屋敷の入り口にある門の方へ向かいながら、心の中で気合を入れます。そんな中、急に後ろから声をかけられます。


「悪いけど、もうすでに入ってるわよ」


 振り返ると、すぐ後ろに綺麗で長身な女性が立っています。誰かはすぐに分かりました。セリーネ様です。4年前と何も変わっておりません。

 黒く大きな帽子を被り、胸元まで伸びた青紫色の髪は綺麗に波打っています。小顔から見える大きな青い目は輝いて見え、厚くツヤっぽい唇はどこか色気があります。ローブマントを羽織っておりますが、開けた胸元――黒い短パンから覗く白い足と、かなりラフな格好をしております。


 それにしても一体、いつの間に私達の後をつけてきたのでしょうか――私は恥ずかしくも、かなり驚いてしまいました。


「いい、驚きっぷりをありがとうね、メイドちゃん。いや――リッカちゃん。お久しぶり」


 そう言って、目の前の女性は凛々しいお顔を近づけ、人差し指で私の顎をくいっと、上に上げてきます。そのあまりにも完璧な仕草に、私は不覚にもときめいてしまいました。


「……セリーネ様、勝手に入ってきましたね。私は、門の方でお待ちして貰うようお伝えしていたかと思いますが?」


 そう言って、お嬢様は私を手で後ろに下げるとセリーネ様と向かい合います。


「待つのは私の趣味ではないからね」

「あれ? でも確か、門番さんにはお嬢様が来るまでお待ちして貰うようお伝えしていたはずなのですが……」


 セリーネ様は私を見て、ニッコリと笑みを浮かべられます。

 

「侵入したのは門からではないからよ。だから、彼らを責めるのは止めて上げて頂戴」


 え!? このお屋敷は5m以上の鉄柵で覆われているのですが!?


「あい変わらず、リッカちゃんはいい表情をしてくれるわね」

「私のリッカを、そんないやらしい目で見ないでください」

「そんなつもりはないんだけど――でも確かに、いじめがいがありそうね。4 年前から変わらずつぶらな瞳をさせちゃって――正直な話、開発したくなってきたわ」


 そう言って、私を見るセリーネ様は笑みを浮かべられます。しかし、なんだか怖いです!


「……セリーネ様、クラリスに言いつけますよ」


 お嬢様の言葉を聞いた瞬間、セリーネ様は明らかに狼狽します。


「わ、悪かったわ、アリーシャ。もう二度と言わないから」

「言わないだけでは駄目です。リッカをいやらしい目で見ないようにしてください」

「だから、そんな目で見てないって言ってるでしょ」

「信用できません。だから、その不要な目はさっさと捨ててください」

「捨てられるわけないでしょーがぁ」


 お嬢様は舌打ちを鳴らします。

 

「お、お嬢様、私は大丈夫ですから」


 私はお嬢様の左腕を揺すります。すると、お嬢様は私の方に振り向き、無表情でじっと眺めてきます。


「……リッカ、後でお仕置きだから」


 何故ですか!?




 ***



 

 庭園にあるガゼボで、お嬢様とセリーネ様は席につかれます。

 私はテーブルにお菓子とお茶の用意をした後、少しだけ後退し、お二人方を見守ります。

 

 お嬢様は一口だけお茶を口にしたあと、優雅にカップをテーブルに置きます。


「どうやって、入ってきたんですか?」

「どう――とは?」

「とぼけないでください。腹が立ちますので」


 セリーネ様は、声を上げて笑い出しました。

 

「悪かったわよ。結界のことでしょ?」


 お嬢様は無言で頷かれます。


「今日の結界を見て、私の使い魔を感知できずに素通りさせたことがよっぽど悔しかったんだなぁーって思ったわ」

「別に……そんなことはありませんが」

「でも、感心したわよ? たった2日であれだけの対策を施したことを」

「なんですか、その言い方は。余裕ですか?」

「そんなつもりはなかったんだけどねー。でも、仕方がないんじゃない?」

「何故です?」


 お嬢様は眉根を寄せます。


「だって実際――余裕だし?」


 セリーネ様のお言葉で、お嬢様が明らかにイラッとした顔をなされたため、私は内心焦りましたが、お嬢様は何とか怒りを鎭めます。


 流石はお嬢様です!


「まぁ――それは、いいです。それより、答えをまだ聞いていませんが?」

「方向性は良かった――とだけ教えてあげる」

「つまり――自分で考えろと言うことですか?」

「そう言うこと」


 お嬢様は顎に手を置き、少しの時間ですが考え込まれます。


「――分かりました。その件はひとまずいいとして、師匠がここに来た理由を教えてください」

「そんなの、決まってるじゃない」

「だから何です? さっさと言って下さい」

「会いに来たのよ。リッカちゃんにね」

「は?」


 お嬢様は見たことがないぐらい――顔を歪められます。


 何だか――怖いのですが!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る