第12話 私のお嬢様は意地悪かもしれません!

 私とお嬢様がアレックス様を見送ってから、数日が経ちました。


 お庭にあるガゼボでお嬢様と一緒にお茶をしていると、柵のところに綺麗な鳥が留っているのに気づきました。


 それを見て、お嬢様は明らかに嫌そうな顔をなさります。


「師匠、リッカの前では出てこないでくださいと――そう、お伝えてしていたはずですが?」


 鳥さんが鳴きます。


 お嬢様は何を言っているのか理解しているようですが、私にはさっぱりです。


「明日ですか、急な話ですね。――分かりました。では、いつもの場所でお待ちしています」


 再び、鳥さんが鳴きますと、お嬢様は眉根を寄せます。


「こちらに来る? それはどういう――」


 突然、鳥さんが一瞬で姿を消したために私は驚いてしまいました。


 鳥さんの消えた方向をお嬢様は睨みつけたまま、舌打ちを鳴らします。なんだか――怖いです。


「……今のは、使い魔って奴ですか?」


 私はおそるおそる尋ねました。


「そうよ」


 お嬢様はため息を吐かれます。


「こっちには来ないでって、言ってあるのに――何を考えてるのかしら、あの人は」


 ひとり言を呟かれます。


 お嬢様のお師匠様――セリーネ様を何度かお世話をさせていただいたことがあります。しかし、それはもう4年も前の話です。とても格好よく、スマートな方だということはよく覚えております。


 セリーネ様は、王都にある魔法省の最高峰である十賢者を最年少で選ばれた大天才です。人類史上最強の魔法使いと言われるマリエル様に次ぐ天才だと言われております。そのような方に見出され、弟子になられたのはお嬢様ただおひとりだけです。

 とは言え、セリーネ様はふだん王都にいらっしゃいます。そのうえ凄くお忙しい方のため、お嬢様が教えを乞うことができる時間はそれほど多くありません。それが残念で仕方がないのです。

 

 このお屋敷にセリーネ様が来られたのはほんの数回だけ。直ぐにお客様を招く別邸の方でお嬢様は魔法を教わるようになりました。私も一緒に行きたかったのですが、何故かお嬢様は別のメイドを引き連れていくので、ここ数年はあいさつすらさせてもらえません。きっと私が知らずうちにご迷惑をかけてしまったのでしょう。しかし、それが何なのか――怖くてまだ聞けていません。お嬢様が別のメイドを連れていくことに、私は毎度――軽い嫉妬を覚えてしまいます。そのたびに、反省することとなります。本当に、私は駄目なメイドです。


「お嬢様、質問いいですか?」

「何?」


 やはり、あまり機嫌がよろしくないようです。


「なぜ今まで、お師匠様のお世話を私には任せてくれなかったのですか?」


 勇気を出して尋ねたのですが、物凄く睨まれてしまいました!


「何よ、リッカはあの人のお世話がしたいの?」

「そ、それは――お嬢様がお世話になっている方なので、お嬢様の専属メイドとしては、他の方には任せたくないと思うのは……仕方がないことかと思いますけども」


 私の声はだんだんと小さくなっていきます。


「だって……」


 お嬢様は何故か、私から顔を背けられます。


「昔、リッカがあの人のこと……格好いいって言ったから」


 お嬢様は、どこかふてくされたように呟かれます。


 一体――どういうことでしょうか?




 ティータイムが終わり、お部屋に戻られても――お嬢様はまだ、機嫌があまりよろしくありません。


 それでもお嬢様は机に向かってお勉強を頑張られています。

 

 偉いです、お嬢様!


 私はお嬢様の背中に向かってガッツポーズを行い、心の中で精一杯の声援を送ります。私は両手で両足を叩き気合を入れますと、お掃除の続きを行うことにしました。


 お嬢様は普段、学園の方にはあまり通われません。ひとりで勉強したほうが効率はいいのだそうです。私みたいな凡人としては、少しだけですが――寂しい話だなぁーと思ってしまいます。しかし、お嬢様がそれを良しとされたのなら、私もそれを最善だと信じるだけです。



 私は鼻歌まじりでお部屋の窓を拭きます。


「リッカ」


 お嬢様がいつの間にか私の後ろにいます。いつも気配を殺しているのか――なかなか気付くことができません。私は作業を止めることなく、首だけを動かします。


「お嬢様、どうかされましたか?」

「リッカ――我慢ができないわ」


 お嬢様は、何故か神妙な顔つきをされています。

 

「え? 大丈夫ですか?」


 何があったのでしょうか? 心配です。


 作業を止めようとしたとき、後ろからお嬢様に抱きつかれてしまいました。咄嗟のことで、身体が固まってしまいます。

 私のお腹周りにお嬢様の手が巻き付き、私の肩にお嬢様の可愛らしい顎がのったかと思うと、頭と頭をすりすりとしてきます。


「な、何をなさっているのでしょうか?」


 尋ねる声が、震えてしまいます。


「リッカが欲しいの」


 嫌な予感がしました。


「それは……どういう意味ですか?」

「リッカと、エッチなことがしたい」

「さ、昨晩、あれだけしたじゃないですか」

「あんなんじゃ――全然、足りないわ。リッカ、全然たりない」


 お嬢様の右手が、私の左胸を弄り始めます。


「あ――」


 左手は私のスカートの裾を上げ、中に侵入してきます。


「や、止めてください。まだ夜じゃないんですから……」


 お嬢様の指は止まる気配がありません。


「リッカが私を誘惑するからよ」

「な、何もしていないじゃないですか!」

「何もしてなくても、そこにリッカがいるだけで私を誘惑するのよ」

「それじゃーもう、私の存在そのものが卑猥と言うことじゃないですかぁ」


 なんだか、泣きたくなってきました。


「そうよ、だから私――本当はリッカをこの部屋から出したくないもの。誰の目にも触れさせず、誰の存在もあなたの目に入れさせたくない。ずっとずっと、私だけのリッカでいて欲しい」


 な、なんだか、凄く怖いことを言われている気がします!


「だけどね、私はそうしないの。だって、自由ではないリッカは――きっとリッカではなくなってしまうから」


 う――なんだか、私の口から変な声が漏れてしまいそうです。


「だからね――私は、リッカが思っている以上に、我慢しているのよ。今あなたが、声を漏らすまいと、頑張っているように」


 そう言って、お嬢様は私の首筋を舐め始めます。


「リッカの下の口――少し濡れてきたわ」

「い……言わないでください」

「駄目よ、リッカ。もっと気持ちよくなって、もっともっと私を求めて――ねぇ、リッカ」


 私は必死に、歯を食いしばります。


「私に身を任せてほしいのに……リッカは本当、意地悪なんだから」


 い、意地悪なのは――お嬢様のほうかと思います!

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