第7話 私はお嬢様を愛しております!

「リッカは嫌なの? 私と永久に生きることが」

「そんなことはありえません。私もお嬢様のお側にずっといたいですから!」

「あぁもう、本当にリッカは――」


 お嬢様の指が、私の唇に触れます。


「――悪い子なんだから」


 え? 私、悪い子だったんですか!? 天使なお嬢様のお側にはいれない感じですか!?


「リッカ、私はね――ずっと我慢していたのよ。あなたのことを考えて、夜はいつも自分で自分を慰めていた」


 慰めていた? 意味がよく分かりませんが、自分ではいけないと思います。だってそんなの――寂しいですよね?


 お嬢様は私から手を離すと、ベットの端に座ります。


「でもねリッカ、私がなぜ今まで我慢してきたのか――それが分かる?」

「い、いえ」


 私は首を横に振ります。


 そもそも、一体何を我慢していたのか――それさえ、私にはよく分かりません。


「お兄様に言われたことがあるの。リッカは私に仕えてくれているけれど、正確には私ではなく――クレイワース家に仕えているのだと」

「でも、私はお嬢様に仕えているつもりですよ?」

「そうね、私は分かっている。リッカが――心から私に仕えてくれていることを。でもね、例えそうだったとしても、リッカの頑張りに報い、リッカの生活を支えているのは私ではなく間違いなくクレイワース家の当主であるお父様よ。だから私は――私がリッカを支えられるまで、あなたには決して手を出さないと決めたの。――まぁ、ここ最近、その決心がかなり揺らいでしまったけれどね」

「それは――どう言う意味ですか?」

 

 お嬢様は私の言葉を笑みで返すと、ご自分の隣を軽く何度か叩きます。


「その話をする前に――リッカ、ここに座って」

「し、しかし――」

「……嫌なの?」

「そんなわけがありません!」

「じゃあ、いいのね」


 そう言って、お嬢様は再び、自分の隣をポンポンと叩きます。


 私は何だか――腑に落ちないものを感じながらも、お嬢様の隣に座りました。ひとり分の空白をあけて。


「……何故、距離を離すの?」


 睨まれてしまいました!


「それは、その……恥ずかしいからです」


 言葉にして、さらに羞恥心が増してしまいました。


 そんな私を見て、お嬢様は笑みを浮かべます。


「もう、あなたは本当に私を惑わせる……悪い子なんだから」


 本日、二度目の悪い子を頂いてしまいました!


 しかし、何が悪かったのかが分かりません!


「す、すみません、お嬢様。私、悪い子です」


 私は我慢できずに、項垂れてしまいます。


「リッカ」


 お嬢様は私の名前を呼んでくれます。


「許してほしい?」

「はい……許して欲しいです」

「では、もっとこっちに来て」

「で、でも――」

「嫌なの?」

「そんなことは――」

「じゃあ早く来て、リッカ」

「は、はい」


 私はおそるおそるお尻の位置をずらします。


「もっとよ、リッカ。まだまだ遠いから」

「しかし、これ以上は引っ付いてしまいますよ?」

「それでいいのよ」


 そう言って、お嬢様は私の服を掴むと――引き寄せてきます。


 とっさのことで、私は小さい悲鳴を上げてしまいます。そして、体のバランスを崩してしまったため、条件反射的にお嬢様へ抱きついてしまいました。


「す、すみません」


 体を離そうとしたのですが、お嬢様が私の腰を強く抱きしめたため、離れられません!


「そのままでいいわ、リッカ」

「しかし――」

「リッカ、そのままでいいの」


 有無を言わせない雰囲気。


「は、はい」


 お嬢様は頭と頭をくっつけてきます。そして、優しく――ぐりぐりと動かしてきます。私は今の状況を上手く理解できていないため、体がカチカチに固まっております!


「リッカは、私のことが好き?」

「はい、私はお嬢様のことが大好きです」

「それは、誰よりも?」

「はい、誰よりもです」

「では、リッカは私のことを愛しているの?」


 愛?


 愛とは何でしょうか?


 当然、漠然とした意味なら理解しています。


 しかし、愛とは何でしょうか?


 単純に、好きの上位互換とでも思えばよいのでしょうか?


「リッカ?」


 お嬢様が、私の耳元で催促してきます。吐く息が耳の奥まで刺激し、私の体は震えてしまいます。


「あ、愛しております!」

「本当に?」

「本当です!」

「その想いは、永遠だと誓える?」

「誓えます!」


 言った後に、私は少しだけ――あれ? と思ってしまいます。何となく、自分が想定していた重さとまったく違う気がしてきました。


「あぁもう、リッカ……リッカ」


 お嬢様は私の名前を何度も口にするたび、私を抱きしめる強さが増していきます。流石にギブーと叫びかかったところで、力が弱まり、腕を私から離してしまいます。それを寂しいと思ってしまった私は、メイド失格です。メイドごときがお嬢様を求めてしまうなど、言語道断でありますよ!


 そんなどうしようもない私に、花のような笑顔を向けてくださいます。そしてお嬢様は靴を脱ぐと――体をずらし、両手と両膝をベットの上に乗せ、ハイハイ歩きで前へ進みます。そのお姿を見て、私はあまりの可愛さにときめいてしまいました。


 お嬢様は広いベットの真ん中で止まり、私の方へ体を向けます。そして両足を外に広げてぺたんと座りました。


「リッカ、早くここまで来て」


 そう言って、お嬢様は私に向かって手招きをします。


「い、いえ。流石にそこまでは入れませんよ」


 私の言葉に、お嬢様はむくれてしまいます。


「私を愛しているという言葉は――嘘なの?」

「そ、そんなことはありえませんから!」

「じゃあリッカ、早く来て」


 私は少しだけ躊躇したものの、意を決してお嬢様のもとへ急ぎます。


 膝を立てての移動のため、速度はかなり遅いですが――気持ちの上では高速でお嬢様のもとへと向かっておりますよ!

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