第13話 潜む思惑
◆──闇取引を暴け──◆
日が沈んでからだいぶ経った夜、
せっせと倉庫の牢から荷物のように運び出す、黒装束の男たちがいた。
「はやくしろ、予定の時刻までに間に合わなくなる!」
数人の男たちの中でも、リーダーのような立場の男が命令すると、
両手足を縛られた人たちを袋に包んで、
馬車の積荷のところへ乗せていく。
「これで全部だな、行くぞ」
捕らえていた人たちを乗せた男たちは、
辺りを警戒しながら、闇夜の山に続く道へ馬を走らせて急ぐ。
だがその時、突如周囲の物陰から続々と隠れていた兵が飛び出すたのだ。
「何者だ!?」
黒装束の男たちが怒鳴って尋ねる。
すると兵たちは剣を抜いて構えながら男たちを円状に囲む。
そして兵たちの後ろからゆっくり歩いて現れたのはユリーナの姿。
「お前たちが、人身売買を行っている者だな?潔く武器を捨てよ!」
ユリーナは剣先を男たちに向けながら、
投稿を求める。
だが男たちは持っていた剣を鞘から引き抜き、
兵たちに向かってかかっていった。
するとユリーナの合図で兵たちは圧倒的な実力をもって、
男たちを戦闘不能状態にした。
リーダーらしき男を除いて。
ユリーナは剣を失い、跪いて兵たちから剣を突きつけらたリーダーらしき男の近くへよる。
「お前には手伝ってもらうことがある!」
ユリーナはそう言って男に向かってあることを伝え始め、密か動きを始めたのだった。
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周囲が真っ黒な深夜に、ティスタープルの離れにある山【リュネイ山】。
この山道の木々の間を密かに走る馬車の姿が、
数少ない松明の明かりを灯している。
馬車は山と海を繋ぐ小さな崖の近くまでやってくると、
ついにその足を止めた。
そしてそこには明らかに異国の文化の派手めな服を着た、男と兵たちが40人ほど立って待ち構えている。
「ようやく着いたか。いつもの時刻より少し遅かったな」
異国の商人の代表らしき男が、馬車に乗っていた黒装束の男に問う。
いつもの時間ではなかったことに疑心を持っているのだろう。
それを感じた黒装束の男は首を横に振り、
「いや、商品を乗せるのに少々手間取っただけだ。はやく取引を始めよう」
と言った。
すると商人の男はそうか、と言いながら部下の護衛兵たちに馬車の中身を確認するように命じる。
兵たちが馬車の積荷を確認しようとしたその時、
馬車の積荷から剣を持ったユリーナの兵が飛び出し、護衛兵を切りつけた。
「な、何者だ貴様ら!?」
商人の男がこう思った時には既に、
あらゆる方向からセイヴローズの兵がやってきて異国の商人たちを取り囲む。
周囲を囲む兵の大きさと、揺れる松明の明かりの多さに動揺する商人たち。
「ば...馬鹿な!?やれ、やれっーー!!」
商人の男が命令を出し、護衛兵が戦闘を始める。
そしてその間に商人の男は逃げようとした。
だがあらゆる護衛兵が切られ、捕縛されていき、
逃げる男の顔の横を、背後から矢が掠めていった。
怖気付いて男が固まっていると、
ユリーナが馬に乗りながらやってきて、
剣を突きつけた。
「これでもう逃げられんな?皆、こやつらを捕らえよ!!」
ユリーナは作戦が上手くいったことをヴィネアに報告するため、
兵を手配したあと夜空の星空を見上げる。
──とりあえず上手くいったな──
剣を鞘にしまい、自らの作戦を振り返った。
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ヴィネアとユリーナでは倉庫に突撃した時、
捕らえられている賎人たちを発見した。
ヴィネアはすぐに人々を助けようとしたが、
ユリーナはそれを制止したのだ。
「どうして助けないのです?!こんな牢にいれておくなんて!」
涙を滲ませながら訴えるヴィネアだったが、ユリーナは必死に首を振りながらヴィネアの肩に手を置く。
「ヴィネア様、確かに彼らを救うことは大事です、私も同じ思いなのです。
しかし、今ここにいる者たちを救うだけでは、その先にいる黒幕を裁けません。
証拠の問題だけではなく、取引相手が誰なのか、そしてそれを行っているのが誰なのかという真実を知れないのです」
「しかし...!」
「彼らは後で必ず救います、どうか今は私の思いついた策に従ってください。
どうか私を信じてください!」
ヴィネアを必死に説得をし、その場を去ったヴィネアとユリーナ。
その後、ヴィネアは安全のために宿に護衛兵と待機させ、
ユリーナは夜中まで倉庫を見張っていた。
そして馬車に人々を乗せた男たちを捕らえ、
そこで捉えられた人を救出。
さらにリーダーの男を利用して、直接取引現場で、取引相手もともに捕らえるという作戦だった。
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「これでヴィネア様もお喜びになるだろう」
ユリーナがそう思って兵たちとともに移動しようとした時、
何者かからの視線を感じて、山の少し上の方を振り向く。
木陰にも誰もいないような気配だったが、本能的に違和感を感じる。
そして兵たちを数名呼び
「一応周囲に誰かいないか確認しておけ」
と命令を出して街へ戻っていった
◆──一抹の予兆──◆
ユリーナが商人たちを捕縛した瞬間を目撃する眼帯の男がいた。
右目の眼帯と手に持っている剣、そしてボロボロの装束が変に目立つような姿の男は、
急いで現場から離れ、乗ってきた馬に跨る。
「さすが大将軍だな、こちらの気配を感じるとは」
そう言って急いで馬を走らせてティスタープルの街へ向かい、
闇に消えていった。
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ティスタープルの有名な地主、
カアネ・スケート。
彼は屋敷の自分の部屋で、焦りに焦っていた。
下働きの男から、自分が行っていた人身売買の取引が失敗したという報告を聞いたからだ。
──まずいまずいまずい、折角私の築き上げた富と財が!──
自らの保身をまず考えても、どうしようもない。
不法な取引でさえ罪なのに、人身売買などバレては死罪は免れないのだ。
──そうだ、あの方に頼もう!──
そう思いたったカアネは急いで部屋を出て、夜逃げをする準備を始めようとする。
だがその時、突如天井から何者かが入ってきて、
カアネの体を床に押さえつけ、口を塞いだ。
「?!」
カアネが叫ぼうとするが、喉元を押さえられて声を発せないどころか、呼吸も苦しくなる。
カアネの体を押さえていたのは例の眼帯の男だった。
そして眼帯の男は持っていた短剣を押さえていた喉にあてる。
「主からの言葉を、手向けに受け取るがいい。“もう用済みだ、責任を持ってあの世へ行ってもらう”だそうだ」
眼帯の男はそう言うと、間髪をいれずに剣で切りつけ、
赤い血が壁に向かって飛び散っていくのだった。
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翌朝、ユリーナは捕らえた商人たちが自白した取引相手の地主、
カアネを捕らえようと兵を自ら動かす。
ヴィネアもともにユリーナとカアネの屋敷へやってきた。
だが、カアネを呼びにいった下働きの男の叫び声で、
ユリーナは血相を変えて屋敷に乗り込んだ。
顔を真っ青にした下働きの男は腰を抜かしている。
ユリーナがカアネの部屋に入った時、
その様子を見て驚く。
「こ、これは!」
なんと、カアネはしゃがみこみながら、自らの喉を短剣で切り裂き、果てていた。
自ら命を絶ったように。
この事件は結局、罪を認めたカアネガ自害したのでは、
という結論で一区切りを終えることになる。
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数日後、セイヴローズ城に帰ってきたヴィネアは、王宮でユリーナとともに茶を飲みながら話をしていた。
晴れた昼下がり、お互い僅かな暇な時間を削って。
「今回の件、ユリーナは本当に解決したと思いますか?」
琥珀の瞳で見つめられたユリーナ。
ヴィネアの言葉で大きく深呼吸したユリーナは少し下を向く。
「わかりません。確かにティスタープルの件は終わりましたが、不可解なこともありました」
「不可解なこと?」
ヴィネアに尋ねられ、ユリーナは下唇軽く噛んだ。
「自害したカアネですが、血の飛び散り方が不自然でした。あれは自害ではなく、何者かに斬られた証、何者かが後ろにいるのは明白です」
言い終えると落ち着いて茶を飲むユリーナ。
ヴィネアはため息をついてうつむいてしまう。
それを感じたユリーナだが、ここであえてあることを口にしてみる。
「もしかしたら、ラヴィア様の死にも関わりがあるのかも知れません。あくまで推測ですが」
ラヴィアの名前を出した時、ヴィネアの表情が少し変わる。
今までは不安のような顔だったが、それからなにかを決意しているような、まるで戦士のような目になったのだ。
これでユリーナは安心した。弱々しかった琥珀が、徐々に輝きを放てることがわかったのだから。
晴れ間に太陽を一瞬雲が包み、日陰になる。
そしてヴィネアが茶菓子を一口食べ、
茶を飲み干すと同時に太陽に光が差し込んできたのだった。
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王都セヴァークのとある大きな屋敷の中で、
口ひげを蓄えた鬼のような面をした屋敷の主、
ガンスタン・ファルニーヴが椅子に座っていた。
ガンスタンは五代司長の1つ人員司長だ。
そして真夜中の今、とある人物を待っている。
酒を飲んでいると、とある男がゆっくりと部屋に入ってきた。
「来たか、言う通りにしたか?」
開口一番そう尋ねるガンスタン。
そして入ってきた男は
「はい、予定通りです」
と言ってガンスタンの目の前に座る。
ガンスタンの目の前にいたのはそう、
カアネを殺害したあの眼帯の男だった。
「私が関わった証拠は?」
「全て処分しました」
ガンスタンの質問に淡々と答える眼帯の男。
答えを聞いて安心したのか、ガンスタンは酒を一気に飲み干し、
満足気な表情を見せる。
「我らが女王様にも困ったものだ。急に国内の不正を暴くなど。
折角グラスディーンに目を逸らそうとしていたのに、あのターネスの老いぼれめ余計なことを」
器に酒を注ぐ音が部屋に響く。
そして眼帯の男を目の前からさげさせ、
顎に手を当ててほくそ笑む。
「我ら金琉派の邪魔などさせまい、たとえ女王であってもな」
ガンスタンは1人呟きながら、長い夜を酒とともに過ごしていく。
燭台の明かりは、風で揺れて彼の影さえも歪ませていった。
(続)
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