〇02

サバ缶を食べ終わって、空き缶を捨てに行くついでに夕闇の町をふよふよと漂っていると、俺が死んだ場所が見えてきた。


あの日あの時あの場所で、俺は車に突っ込まれてあっけなく死んだ。迫ってくる黒いワゴン車、あ、と思った次の瞬間には幽霊となってぷかぷかと電柱の上から自分の遺体を眺めていた。痛みも苦しみもなかったのは良いが、死を覚悟する時間すらなかったもんだから、浮遊霊として現世をふよふよと彷徨う羽目になってしまった。


しばらくの間は河原で綺麗な石を探したり、夜中に本屋に忍び込んでマンガを読んだりと、自由気ままな幽霊生活を楽しんでいたが、さすがに寂しくなってきた。誰かと話してぇなあと思うも、幽霊連中は暗がりでぐずぐずと腐ってばかりでまるでコミュニケーションがとれねぇ、さらにどいつもこいつもしっかり臭くて近寄るだけで辟易しちまう。


生きてた頃に観ていたVtuberを思い出した俺は、ひょっとしたらと思って深夜の電気屋に忍び込んだ。思った通り、俺の声や動きはカメラやマイクを通せば人間にも認識できる事が確認できた、心霊写真とかと同じシステムらしい。すっかりテンションの上がった俺はそのまま電気店のパソコンで自分のアバターをでっちあげてVtuber「白梅ぬい」としてデビューした。あれから1年、視聴者にもコラボ相手にも幽霊だとバレること無く、人間とのおしゃべりを楽しんでいる。

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