眠れない夜はあなたを思った
――ああ、まただ…。
何故だかわからないけれど、夜中に目が覚めてしまった。
最近、夜中に目を覚ますことが多くなってきていた。
「ーー不眠症かしら…?」
夜中に目覚めたって、何にもないのに…。
「萌波さん」
その声に視線を向けると、衛藤さんがいて私は彼の車の中にいたことを思い出した。
今日も衛藤さんは学校まで私を迎えにきたのだ。
自分も仕事で忙しいはずなのに、彼は車に乗って私を迎えにきた。
いつの間にか、私は彼がくるのを楽しみに思うようになっていた。
人の心と言うものは本当によくわからないな…。
「学校で何かあった?」
「えっ?」
「ずいぶんと浮かない顔してたから」
「やだ、私ったら…」
栄樹とエミリに関しては何にもない。
衛藤さんにやられたことが、よっぽど怖かったんだろうと思う。
栄樹は彼に殴られたし、エミリに至っては半泣きだった。
「無理しない方がいいよ?」
そう言った衛藤さんが私のことを見つめてきた。
その瞳には何があると言うのだろうか?
見つめられたら隠し事も嘘をつくこともできなくなってしまう。
「ーー夜、眠れないんです」
その瞳に従うように、私は口に出してしまっていた。
衛藤さんは医者じゃないからそんなことを言っても仕方がないのに。
「夜中に何度も目が覚めてしまって…それで、不眠症なのかなって」
衛藤さんの瞳に逆らえなくて、結局悩みを打ち明けてしまっていた。
「そう」
当の衛藤さんは返事をしただけだった。
言っても仕方がなかったうえに、衛藤さんを困らせてしまったことを私は反省した。
*
その日の夜、私は眠ることができなかった。
ーー衛藤さん、困ってたな…。
どんなに寝返りを打っても考えることはそればかりで、余計に眠れなかった。
「ーー眠れない…」
そう呟いた後で、私は枕に顔を埋めた。
また、“寂しい”って言えばきてくれるのかな?
そう言えば、衛藤さんはまた私の前に現れるのだろうか?
私の手に、誰かの手の温もりとその感触がしたことに気づいた。
あまりにも不自然なその感覚に、私は思わずそちらの方に視線を向けた。
「ーー萌波…」
「ーーえっ、衛藤さん…?」
どうして彼がこんなところにいるのだろうか?
いろいろと疑問は浮かぶのに、何故か口に出して言うことができなかった。
そしたら、
「ーー“寂しい”って、言ったでしょ?」
衛藤さんの唇が動いた。
ああ、本当にきてくれたらしい。
「萌波が寂しい時は、私がそばにいるって」
口じゃなくて、心の中で言ったの…と、言いたいけど言うことができなかった。
「ーー萌波…」
衛藤さんの手が私に向かって伸びてきたかと思ったら、その手は私の髪をなでてきた。
優しく微笑みかけてきた彼のその顔を見ていたら、まぶたがだんだんと下がってきたのがわかった。
*
カーテンの隙間から差し込んできた眩しい光に目を開ける。
いつの間にか眠っていたことに私は気づいた。
「ーーあれ…?」
私は躰を起こすと、周りを見回した。
そこにいたはずの衛藤さんはいなかった。
彼は私の手を握っていたはずなのに、今はその温もりもなければ手の感触もなかった。
「ーー夢だったのかしら…?」
そう呟いてもわからないのに、衛藤さんがこの場にいないのは事実だ。
「変な夢」
私は自分に言い聞かせるようにしてそう呟くと、ベッドから降りた。
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