最後の1人

 来実は司の死体にベットのシーツをかけた。自分が殺してしまった司をまた見たくなかったからだ。


 司は運命を試したいだなんて理由で、皆を殺したの? たったそれだけの理由で?


 でも、司が話した犯行は納得のいくものだった。とても普段の司からは考えられないことだけど、今はそれを真実だと考えるしかない。でないと、私が彼を殺した正当化ができない。


 どの道、司は狂っていた。そして、私は殺されそうになった。だから、私はしょうがなく殺してしまった。


 私は正当防衛。


 来実は自分を正当化する言葉を頭の中で繰り返した。来実は死体だらけの2階から離れて、1階に下りた。そして、自分の部屋に戻った。来実はベットの上に座り込み、布団にくるまった。


 大丈夫。もう私の命を狙う人間はこの洋館にいない。


 このままじっとしていれば、助けが来る。来実はそう言い聞かせて、布団にくるまったまま時間が経つのを待った。


 カタッ


 2階で何かが鳴った。来実は何かの気のせいだと言い聞かせた。


 ガタッ


 また2階で何かが鳴る。誰かがいる。そんな疑念が頭をよぎる。しかし、私以外は全員死んでしまった。司は確実に死んでいる。だから、音なんてなるはずがない。


 パチッ


 何の音なの? 何かいるの? 心霊現象みたいなこと? もしかして、雫が化けて出ているの?


 来実は怖気づいてしまって、部屋を出て行くことは出来なかった。しかし、何かしないと自分が殺されてしまいそうだった。


 だって、まだ金庫の人形の予言は外れていない。


 だから、私は喉を押さえた人形の予言の通りになるはず。だから、誰かが首を絞めてくる。


 もしかして、幽霊が金縛りで私の首を絞める?


 そしたら、私はどう対抗したらいいの?


 私は2階に金槌を置いてきてしまったので、自分のカバンの中から武器になりそうなものを探した。しかし、ろくなものを入れていなかった。強いて言うなら、プラスチックの小さな水筒くらいしか武器になりそうなものは無い。


 カバンの中身をあさっていると、スマホの画面が点いてしまった。スマホには現在時刻が12時過ぎであることを知らせていた。その画面にあまり気を留めなかったが、画面上に写っているアンテナが4本立っていることに気が付いた。


 来実はそれが見間違い出ないか確認するために、スマホを手に取る。確かにアンテナは4本立っていて、通話可能だった。


 来実はすぐにスマホを開き、110番に電話する。電話はすぐにつながった。


「はい、こちら110番、警察です。事件ですか?事故ですか?」

「事件です!」

「何がありました?」

「アガサ山の洋館に7人で来たんですけど、皆殺されちゃって。橋が壊れているんで、逃げ出せないんです。」

「分かりました。すぐに救助を向かわせます。あなたの安全は確保されていますか?」

「いや、まだこの洋館の中に誰かいるみたいなんです。


 ……雫の、雫の幽霊かもしれません!」

「落ち着いてください! とりあえず、詳しく事件の状況をお願いします。」


 来実はどういったことが起こり、司が犯人と名乗り出て、殺してしまったことを事細かに話した。


「分かりました。状況から見て、あなたは正当防衛となる可能性が高いですので、安心してください。」


 ガタッ、パチパチパチパチ


 部屋の外で激しい音が鳴っている。


「早く! 早く来てください! 外で、外で誰かが……。」


 その時、来実は煙臭い匂いを感じ取ると、めまいに襲われる。


「煙?」


 来実が部屋を見渡すと、扉から煙が漏れ出していることに気が付いた。煙は段々と大きくなっていき、部屋中の視界が霞んでくる。


「早く来て下さい! 燃えてます! 部屋の外が燃えてます!」


 来実は部屋の外を確認しようと、ドアノブを触れる。すると、手からとてつもない熱さが伝わってくる。


「熱い!」


 来実はドアノブから手を離した。来実は手のひらを見ると、皮膚がべろんと剥がれていた。手のひらから伝わる熱さと激痛が来実を襲う。来実は痛みに悶えて、床に倒れこんだ。


「大丈夫ですか! 聞こえてますか! 燃えているなら、煙を吸わないようにしてください。」


 来実は片手に持ったスマホから110番のオペレーターの声が聞こえる。


「早く! 死んじゃう! 殺される! 誰なの! 


 雫? 司? 誰なの?」


 来実は呼吸を粗くして、パニック状態に陥る。来実はそれによって、煙をたくさん吸い込んでしまっていることに気が付いていなかった。


 来実は訳の分からないまま、段々と意識が朦朧もうろうとしてくる。


「大丈夫ですか! 煙を吸わないように口を布で押さえてください!」


 その声も空しく、来実は煙を深く吸い込み、プツリと意識が途切れてしまった。




 その後、来実は絶命した。

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