4+3+1

「雫が犯人? 何を言っているんだ? 雫は1年前に死んだことを忘れた訳じゃないだろうな?」

「ああ、アガサ山で全身ぐちゃぐちゃのが見つかったことは忘れてないさ。」

「雫らしき?」

「そう、雫らしき死体だ。だって、1年前見つかった転落死体は、全身を強く打ちつけて、体がぐちゃぐちゃになっていたんだろう?


 なら、そういう時は、所持品や服装で身元確認を行うだろう。それに、自殺となれば、わざわざ指紋や歯型を合っているかの確認はしないだろう。


 そうなると、雫と背格好の似た人間に雫の所持品や服装を着せて、崖から落としたとしたら、雫の死を偽装することができるだろう。後は姿を見られないようにするだけで、雫は死んだと勘違いをさせることができる。」

「雫は生きているって言うのか?」

「まだ、仮の話だ。だが、この可能性は確実に覚えておいた方がいい。雫が目の前に現れた時、驚くか驚かないかは、殺されるか殺されないかに関わってくる。だから、雫が生きているという仮説は、必ず心に留めておいて欲しい。」

「分かった。まあ、今はそう言うことにしておこう。


 ……じゃあ、なんで、雫が俺達を殺すんだ。」

「少なくとも、今まで殺された人間はさっき剛犯人説の時に語った理由と同じだろう。俺達がいない間にサークル内であった事件の関係者をまず殺したんだ。


 しかし、殺人はまだ終わらない。金庫の中には俺達を暗示するような人形があるからな。


 だから、俺達は口封じのために殺されるんだ。」

「口封じ?」

「だって、雫は1年前に死んでいることになっているからな。そのことを俺達に勘付かれる可能性があるから、口封じのために俺達を殺すんだ。」

「可能性だけで人を殺すのか?」

「そもそも、金庫の人形を見ても分かる通り、犯人は殺人を楽しんでる。人形と同じ殺し方をする見立て殺人も行っている。


 だから、目的の殺人を行ったし、俺達を殺しておこうという具合だろうな。」

「それなら、俺達3人は元から呼ばなかったらよかったじゃないか?」

「それだと、容疑者が少なくなりすぎるからだろう。


 俺達3人抜きだと、7-3で4人。殺人劇を始めるには登場人物が少なすぎる。だって、残りの2人になった時点で、互いに相手が犯人だと思う疑心暗鬼状態が出来上がる。


 そうなれば、自分の手で1人ずつ殺すという目的が達成できない可能性が高いし、人形と同じ殺し方ができなくなるかもしれない。


 だから、容疑者を減らさないために、俺達3人が加えられたわけだ。


 そして、俺達は容疑者を減らさず、目的の4人を殺しやすい土場を作るという役目を終えた。つまり、俺達は用済みだから、人形の示す通り、撲殺、窒息死、溺死で殺される訳だ。」

「雫がそんなこと……。」

「したって考える必要はある。これから、雫の思い通りに殺されないためにもな。」

「でも、雫はどうやって4人を殺すことができるのか? 俺達から隠れながら、1人ずつ殺すのは至難の業じゃないか?」

「逆だよ。隠れているから、殺しやすいんだよ。」

「隠れているから、殺しやすい?」

「まず、雫がこの洋館にいるなら、俺達に見つからないような隠れる場所が必要だ。


 そして、その隠れ場所は、おそらく2階の天井裏だ。」

「天井裏?」

「今思えば、洋館は三角屋根だから、2階と屋根と間には空間があるはずなんだ。人1人が十分隠れることのできるスペースがね。


 この天井裏の存在があると仮定すると、今までの殺人を無理なく説明することができる。


 まず、圭人の殺人。これは、俺達がこの洋館に来る前に、吊り橋のロープを切っておいたんだ。


 おそらく、この洋館に続く吊り橋はルバの吊り橋だった。だから、事前に7人目を落とすようなロープを切っておいた。そうすれば、俺達6人を洋館に閉じ込めることができ、7人目の人間を転落死させることができる。


 そして、ルバの吊り橋は1人ずつ渡ることが重要だ。これを強制するには、剛先輩くらいしかできないと思った。しかし、よく考えれば、剛先輩に1人ずつ吊り橋を渡ることを命令した人間がいた。」

「雫のお爺さんか?」

「そうだ。雫のお爺さんが吊り橋を1人ずつ渡ることを剛先輩に伝えた。そして、雫のお爺さんに吊り橋のことを刷り込むことができた人間は雫しかいない。


 俺達の命令で吊り橋を1人ずつ渡るように伝えても、お爺さんは言うことを聞かないが、雫の命令なら、言うことを聞くだろう。


 そして、7人目に渡る人間は、圭人だと分かっていた。理由は圭人はいつも遅れて、最後尾になる人間だと分かっていたからだ。


 登山サークルでは、圭人が1番遅れてやってくることはいつものことだった。雫はそのことを使って、圭人を狙って落としたんだ。


 次に、美空の殺人。これは天井裏からの出入りが可能であれば、無理なく説明することができる。


 吊り橋に仕掛けを施した雫は、洋館の天井裏に隠れた。おそらく、天井裏の出入り口は、各個室の天井にあると考えられる。


 個室の天井から天井裏に隠れた雫は、俺達が入って来るまで待った。そして、俺達が入って来ると、美空を2階の真ん中の個室に呼び寄せた。」

「ちょっと待て。どうやって、2階の真ん中の個室に呼び寄せたんだ?」

「簡単だよ。美空の招待状にだけ秘密の手紙を仕込んでおいたんだ。


 おそらく、その手紙には、


『美空にだけ私が自殺した理由を伝えます。洋館に入ったら、2階の真ん中の個室に来てください。また、この手紙はすぐに処分するようにしてください。』


 とでも書いておいたんだろう。美空はその手紙の内容を信じて、2階の真ん中の個室に入った。そして、美空は天井裏から出てきた雫によって、背中を一突きにされる。


 そして、雫は美空の死体を扉の近くに持っていく。そうすることで、天井裏に隠れる時間を稼いだ。


 その証拠に、ナイフの柄に手形が付いていた。死体を動かすときに、ナイフを持ったんだろう。それなら、血が付いた手で、ナイフを握り直した理由も理解できる。


 死体を動かした後、扉が開かないと立ち往生している内に、雫は天井裏に逃げ込む。すると、扉には死体がつっかえていて、窓は閉まっているという密室が出来上がる。


 そして、俺達が美空の死を驚いている隙に、自動発火装置を天井に仕掛ける。この自動発火装置の必要性は、天井裏に続く戸を燃やしてしまうことだ。


 扉からも、窓からも脱出したと思えない時には、部屋の中に扉と窓以外の秘密の通路があるんじゃないかと考えるかもしれない。そうなると、天井を調べられる可能性がある。


 だから、天井に目が行く前に、部屋を燃やして証拠隠滅を図ったんだ。そうすれば、俺達が犯人は天井裏に逃げ込んだという推理を立てたとしても、検証の使用が無くなる。


 さらに、美空の部屋を火事にすることはもう1つ利点がある。火事の現場に皆の目が集中することだ。


 そして、この推理の仮定として、2階の個室の床に、1階の個室につながる隠し扉があるとする。


 そう考えると、雫は自動発火装置を取り付けた後、俺達がゲストルームで集まっている間、天井裏から剛先輩の部屋に下りる。そして、部屋の床にある隠し扉で、1階の個室に下りた。


 そして、キッチンに向かい、蛇口に消火活動でも薄まらないくらいの毒を蛇口に塗る。雫は毒を塗ると、隠し扉を使って、2階から天井裏に戻る。


 この時、隠し扉を開ける音や足音などの音が聞こえると、ゲストルームにいる人間以外が洋館をうろついていると思われる可能性がある。だから、火事を起こすことで、その音を誤魔化す効果もあっただろうと思う。


 で、今説明した通りに、樹里は水道に塗られた毒によって、殺害された。樹里はいつも水分をあまり持たずに、川や水道があるたびに、小さな水筒で汲んでいたからな。おそらくその癖をついて、樹里を狙ったんだ。


 最悪来実を巻き込んでも、樹里はこの人形の殺し方を後ですればいいと思っていたんだろう。


 そして、剛先輩の殺人。これは、さっきの天井裏を使って、密室を作り上げたんだ。


 まず、部屋に戻ってきた剛先輩の背後から雫が現れる。剛先輩は死んだはずの雫が目の前に現れて、腰を抜かす。そして、椅子に倒れこんだ先輩をライフル銃で殺害。この時、剛先輩を自殺に見せかける必要があった。


 なぜなら、残っている人数が3人だからだ。ここまで少なくなると、残った人間で疑心暗鬼が始まり、誰かが誰かを殺してしまう可能性があったからだ。だから、剛先輩が犯人であり、罪の意識に耐えかねて自殺。というストーリーを作り上げる必要性があった。


 だから、扉と窓の鍵を閉め、先輩の靴下脱がした。これで、ライフル銃を死体の横に置いておく。すると、どう見ても自分でライフル銃の引き金を引いたように見えるし、密室だから、自殺と判断せざる負えなくなる。


 あとは、ベットを横に立て、床下収納を開ける。こうして、ライフル銃が床下収納に隠されていたように細工した。自殺に見せかける工作を終えると、天井裏に戻った。


 このようにして、雫は4人を殺したんだ。」

「……そして、雫は俺達も殺すのか?」

「そうだろうな。」


 雫が生きているのだろうか? 


 確かに、この洋館には誰かが隠れている可能性は大いにある。だが、それが雫だと考えることはどうにもできない。


 雄馬の言う通り、雫の死体は全身を強く打って、見た目からは雫だと判断できない死体だったと聞いている。それに、警察は死体の確認は深く行わなかった。だから、雄馬が雫の死体が偽装されていると考えても無理はない。


 もし、雫が生きていて、このような殺人を犯しているなら、俺は雫を止めたい。殺されたくないということではなくて、雫に罪を犯させたくないんだ。


 だって、俺は雫の……


「……今の話、本当なの?」


 考え込んでいた司は、後ろから聞こえたその声に驚いた。司は急いで、後ろに懐中電灯を照らした。すると、懐中電灯の光に目を眩まされている来実がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る