金庫の中身
司は再び剛の部屋に戻って、もう一度部屋を調べる。剛の死体はもう調べ切ったが、ベットの下の床下収納を詳しく見れていない。なので、床下収納に近づいて、中を覗いてみる。
床下収納は長さ1mで、幅は20cmくらいだ。深さは暗くてよく分からないが、そこまで深くはなさそうだ。もちろん、人間が入ることのできる空間はなさそうである。
暗い床下収納に目を凝らしてみると、何かが入っているのが見える。司は床下収納に手を入れて、その何かに手を伸ばしてみる。
司は手に掴んだものを引き上げて見てみると、それは、拳銃だった。銃の種類には詳しくないが、刑事ドラマで警察が携帯するようなタイプの銃だ。銃弾を入れる所があって、それを開いてみると、銃弾が6発全部が込められていた。
これによって、剛が自殺でない根拠がさらに追加された。
司は銃弾を銃に戻して、床に拳銃を置いた。暗い床下収納にもう一度手を入れて、他に何かないか探ってみる。すると、床下収納の底に、紙切れのようなものが貼り付いている。
司は指でその紙きれを摘まみ上げ、床下収納から出す。すると、その紙きれには、定規で書いたデジタル表記の数字が書いてあった。
「……1939?」
司はその数字を見て、しばらく何の数字かと思考を巡らせた。すると、司は物置部屋の金庫の暗証番号である可能性を思いついた。
司はすぐにでも金庫にこの数字を入力したかったが、樹里の死体と同じく、剛の死体にも布を被せておきたかった。なので、横に立っているベットからシーツを引き抜き、椅子に座った剛の体全体に被せた。
司は剛の死体に向かって手を合わせた後、部屋の扉を閉めた。
司が部屋を出ると、廊下はさらに暗くなっていた。何か明かりが無いと駄目な状態だった。司は壁を伝いながら1階に下りた。廊下には雄馬と来実の姿はないようだった。おそらく個室のどこかにいるのだろう。
司は来実に辺に聞かれてはまずいと思い、雄馬を呼ぶことはしなかった。1階は2階よりも暗かった。司は洋館に入った時に、美空が下駄箱から取り出した懐中電灯を思い出した。なので、玄関に向かい、懐中電灯の入っていた下駄箱を開けた。
下駄箱には懐中電灯が入っていたので、それを点けた。懐中電灯は暗くなった洋館を照らした。司はその懐中電灯の光を頼りに、物置部屋に向かった。
物置部屋の扉を開けて、その部屋の奥にある金庫を照らす。そして、金庫のダイヤルを1939になるように回した。すると、ガチャリと金庫の鍵が開いた音がした。司はその音を聞いて、金庫の取っ手を回す。
金庫の扉はゆっくりと開き中が露わになる。司はその金庫の中身を懐中電灯で照らした。
「誰だ?」
司はその声を聞いて、その声の方向を懐中電灯で照らす。そこにはスマホの明かりを持った雄馬がいた。
「誰って、この洋館をうろつく人間は俺しか残っていないだろう?」
「……何をしていたんだ?」
「実は、剛の部屋で金庫の暗証番号を見つけたから、金庫を開いてみようかとしただけだ。」
「そうなのか?」
「そっちこそ、来実を置いて何をしに来たんだ?」
「あまりにも洋館が暗いから、光になるものを探しに来ただけだ。スマホの明かりは充電を食う。連絡用にスマホは残しておきたい。だから、物置にランプなり、ろうそくなりが無いか調べに来たんだ。」
「それなら、そこの棚にランプがあったよ。」
司は棚の上にあるランプを懐中電灯で照らした。ランプは手持ちのもので、コンセントが点いていて、非常時に充電できるタイプのようだった。
「ちゃんとしたランプだな。これなら、スマホの充電もできそうだ。」
「そうだな。」
雄馬はランプを確認した後、金庫の方に目を向ける。
「……で、金庫は開いたのか?」
「……ああ、開いたよ。」
司は雄馬を照らしていた懐中電灯の光を金庫の中に向けた。
「これは?」
「兵隊の人形か?」
金庫の中にはいくつかの兵隊人形があった。いくつかと言う表現にしているのは、人形の中には壊れたものがあり、1体と表現していいか分からなかったからだ。
四肢がバラバラになって壊れている人形、背中にナイフが刺さり黒焦げ人形、毒々しい紫のビー玉を口にねじ込まれた人形、顔に大きな穴が空き小さな銃が置かれた人形などが置かれている。
「おい、これって、死に方を予言しているんじゃないか?」
「”そして誰もいなくなった”だな。」
「ああ、”そして誰もいなくなった”は10人が孤島に集められて、マザーグースになぞらえて、1人ずつ殺されていく。そして、1人殺されると、人形が1つずつ減っていく。
そのマザーグースと人形を合わせたものがこれだろう。人形が殺され方を暗示している。バラバラの人形は橋から落ちた圭人、ナイフが刺さって黒焦げの人形は美空、ビー玉を咥えた人形が樹里、顔に穴が空いた人形は剛先輩だろう。
……皆、計画的に殺されてしまったようだな。」
「そして、それだけじゃないようだな。
「俺達の人形もあるな。」
「ああ。」
残りの人形は、首で両手を握っている人形、頭が酷く潰れた人形、何かの液体に瓶詰めされた人形だった。
「やはり、まだ終わりじゃないってことか。」
「やはり? 雄馬は剛先輩が犯人だと考えていたんじゃなかったのか?」
「違うな。」
「じゃあ、来実か俺のどちらかが犯人だと思っているってことか?」
「いや、そうでもない。」
「そうでもない? それはどういうことだ?」
「……その前に、聞かせてほしい。司は剛先輩の死体を見て、自殺だと思ったか?」
「……先輩は自殺じゃない。」
「やはりそうか。俺の推理を披露する前に、先輩が自殺である根拠を教えてくれ。」
「分かった。
先輩が自殺したと考えるには不可解なことが2つあった。」
「それはなんだ?」
「前歯が欠けていることとライフルと拳銃の両方があったことだ。
まず、先輩の前歯が欠けていたことだ。おそらく、ライフル銃で口の中を撃ち抜いた時に、銃弾が前歯に当たって、前歯が折れてしまったんだと思う。
しかし、それはおかしい。
前歯が折れたということは、銃口を口の外に出して発砲したということだ。実際、口の周りが銃の火薬で火傷していたから、口から少し銃口を離して、引き金を引いたことになる。」
「そのことがおかしいのか?」
「ああ、銃口を口で咥えないと、きちんと自殺できないからな。」
「そうなのか?」
「よく映画とかドラマとかで、こめかみに銃口を当てて自殺するシーンがあるだろう?」
「あるな。」
「だが、その自殺の仕方では、確実に死ねるとは言えない。なぜなら、自殺の緊張と銃の反動で脳天を撃ち抜けないことがあるからだ。
銃を撃つ時は、もちろん反動がある。素人が銃を撃てば、腕がかなり上に飛ばされる。それに、どれだけ自殺の決意を固めていても、反射的に銃を逸らしてしまうし、緊張で手が震える。そうなると、急所を撃つことができない場合がある。
だから、正しい拳銃自殺は口で銃口を噛み、確実に銃口がずれないようにするとほぼ確実に自殺することができる。さらに、今回はライフル銃だ。反動も拳銃の比じゃないくらい大きいだろう。
しかし、剛先輩は銃口を噛まなかった。これでは、口に銃を撃ち込む必要性が無くなってしまう。」
「それは、先輩が口で咥えることで自殺を確実にするとは知らなかったのかもしれないぞ。」
「そう考えても、銃口を咥えないのはおかしい。なぜなら、先輩はライフルの引き金を右足で引いていたからだ。
先輩の右足だけ靴下を脱いでいた。ここからおそらく、ライフルの持ち手部分を床に押し付け、両手で固定し、引き金に右足の指を引っかけて、自分の口を撃ち抜いたと考えられる。
そうなると、ライフル銃はかなり不安定な置かれ方をしていることになる。
ライフル銃の持ち手部分は水平にできていないから、床にぴったりと固定することは出来ない。さらに、両手で持っていたとしても、引き金を足で引いたのだから、ライフル銃を完全に静止することは出来なかったことが推測される。
さらに、さっき言った通り、自殺の緊張もあっただろうから、銃口はかなり揺れただろう。
そうなると、自殺者の心理として、なんとしても固定せねばと思うだろう。そうなると、自然と銃口を口で咥えるんじゃないか?」
「確かにそうかもしれない。」
「だから、銃口を咥えないで、自殺したことはおかしいんだ。」
「一理あるな。」
「そして、先輩が自殺ではない2つ目の理由は、ライフル銃と拳銃の2つの選択肢がありながら、ライフル銃での自殺を選んだことだ。
ライフル銃は銃身が長く、拳銃は銃身が短い。そうなると、自殺しやすい銃は、もちろん拳銃だ。
だって、さっき言ったが、ライフル銃で自殺しようとすれば、手で引き金を引くことができず、足で引き金を引く羽目になってしまう。
そこまでするくらいなら、拳銃で自殺した方が良いだろう?
拳銃なら手だけで自殺することができるし、安定性もある。だから、わざわざライフル銃を使って自殺した剛はおかしいんだ。」
「自殺でないと考えるには十分だな。」
「さらに言うなら、銃身の長いライフル銃といえど、銃身を口に咥えてしまえば、手がギリギリ届くかもしれない。それなのに、銃身を咥えずに、足で引き金を引くという選択に至ったことも不可解だな。」
「駄目押しの3つ目か。」
「とりあえず、今言った理由から、剛先輩が自殺したとは思えない。」
「……。」
「俺は言ったぞ。だから、お前の推理を聞かせてくれよ。俺と来実が犯人じゃなけりゃ、誰が犯人なんだ?
もしかして、雄馬が犯人だったって言う告白じゃないだろうな?」
「違う。 俺も、司も、来実も、剛先輩も、樹里も、美空も、圭人も犯人じゃない。」
「はあ? この洋館には、その7人しかいなんだぞ? なら、その内の誰かが犯人であることは確実だろう?」
「違う。」
「何が違うんだよ?」
「まず、その前提が間違っていたんだ。」
「どの前提だよ?」
「この洋館には俺達7人しかいないという前提だよ。」
「……?」
「この洋館には、俺達7人以外にもう1人いたんだよ。」
「……一旦、その8人いるという前提を信じたとして、その1人は誰なんだよ?」
「それは……
雫だよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます