クローズドサークル

「これから、まだ人を殺す?」

「ああ、そうでないとスマホが圏外にすることを説明できないだろう。


 これは明らかに、外界との連絡ができない状況だから、クローズドサークルだろう?」

「クローズドサークル……。」


 司はその言葉が現実になるとは思わなかった。


「おそらく、通信機能抑止装置的なものを使って、この洋館周辺で通話ができないようにしているんだ。」

「通信機能抑止装置?」

「ああ、劇場とかオーケストラの会場とかの携帯電話が鳴ったらいけない場所では、携帯電話を強制的に圏外にする装置があるそうだ。


 それが通信機能抑止装置だ。」

「それを使って、通話をできなくしたのか?」

「そう考えるのが、一番合理的だろう?」

「しかし、誰が?」

「正直、その質問には全員可能性があるとしか答えられない。


 だが、その可能性は全員均一じゃない。」

「どういうことだ?」

「通信機能抑止装置を手に入れるには免許がいる。だから、一般人が家電屋に行って、簡単に手に入れるものじゃない。


 特に、今回の場合みたいに、この洋館の周辺全てを圏外にするほどの通信機能抑止装置となれば、一から誰かに頼むでもしないと作ってくれないかもしれない。


 そうなると、電子機器に強い人間が犯人である可能性がある。


 司は物理学科だが、力学方面だから、電子機器には強くない。俺も建築学科だから、同じく。そして、教育学部の樹里と法学部の来実も言わずもがなだ。


 で、剛先輩と美空は工学部だ。それも、2人とも電子工学専攻だ。」

「じゃあ、剛先輩と美空が怪しいと言うのか?」

「ああ、そもそも剛先輩は、吊り橋を1人ずつ渡るように言った張本人だから、ルバの吊り橋の状況を作りやすいし、この洋館の鍵を持っていたんだから、事前に下見もできるだろう。


 それに、美空はおそらくこの洋館に一度来たことがある。」

「懐中電灯のことだろう。」

「司も気が付いていたか。


 全員初めて来たはずの洋館なのに、美空は下駄箱の中にあった懐中電灯を迷いなく取り出した。


 あれは、この洋館に来たことのある人間の動きだ。」

「だからと言って、犯人だというのは早計だろう。圭人の彼女は美空なんだぞ。」

「あくまで可能性の話だと最初に前置きをしておいただろう?」

「そうだけど……。」

「そもそも、ただの偶然が重なった事故の可能性もないとは言えない。


 それでも、一応、誰かとは話し合っておきたかったんだ。」

「それが俺か? 俺が犯人かもしれないぞ。」

「まあ、そうだが、お前が犯人になるには、少々性格が大雑把だ。」

「どういうことだよ?」

「もし、ルバの吊り橋を使ったなら、渡る途中に、ナイフか何かでどこかのロープを切ったと言うことだ。


 もちろん、誰かがその動作を見ていれば駄目だから、自然な動きでロープを切らないといけない。


 でも、司は吊り橋を走っていったし、なにより、大雑把なお前に手品のような芸当をできると思えない。」

「だから、犯人じゃないということか。


 それこそ大雑把な推理じゃないか?」

「そうだな。でも、この登山サークルの中で、探偵役を選べと言われれば、間違いなくお前だよ。」

「そうかな?」

「そうだよ。お前は大雑把だが、どこか鋭くて、全体の構造を掴むのが上手い。目の前の情報を集めるだけの俺や研究狂の雫よりも探偵役はお前がふさわしいさ。」

「それはありがたいが、まだ何1つひらめいちゃいないぞ。」

「まあ、いいさ。


 誰かが殺される前、いや、最悪、俺が殺される前までには、犯人を見つけてくれればいい。」

「そうか。俺がもし生きていれば、助けてやるかもしれない。」

「そうだな。次に誰が殺されるか分からないもんな。」


 2人はそう言って、黙ってしまう。部屋の外の音はあまり聞こえない。司は探偵にふさわしいと言われてしまったので、少し事件を考えてみることにした。


「……犯人が手紙を送った理由は何だったんだろうな。」

「手紙? 雫の手紙か。」

「ああ、俺達をここに集めた手紙だ。俺達をここに集めた理由を言うって書いていただろう?」

「そう書いていたが、誰がその理由を言うんだろうな。雫は死んでいるから、やはり犯人なんだろうか?」

「犯人が雫の死んだ理由を言うとしたら、雫が死んだ理由に俺達の命が狙われる原因があるんじゃないか?」

「つまり、圭人を殺したのは、雫の死に圭人が関わっているからだってことか?」

「そうだ。そして、その雫の死に関わっている人間はまだこの中にいる。だから、俺らはこの洋館に閉じ込められているんだ。」

「なるほど、あり得る話だな。


 だが、1年前から考えているが、雫が死ぬ理由なんて思いつかないんだよな。」

「ああ、同感だ。」

「まあ、雫の死の理由を知っていたなら、こんな死んだ雫からの手紙なんていたずらだと割り切って、来ることはなかっただろうがな。」

「だが、雫は自殺した。


 それなりの理由はあるはずだ。」

「ということは、キーマンはこの6人の中にいる訳だ。」

「……そうだな。」

「ところで、司……。」

「なんだ?」

「もしかして、お前、雫と……。」


 司が話を続けようとした時、隣の部屋から悲鳴が聞こえる。司と雄馬はその声に反応して、すぐに扉の鍵を外して、廊下に出る。


 すると、真ん中の部屋の扉の前には、樹里がいた。樹里は真ん中の部屋の扉を叩いている。


「ちょっと! 美空! 何かあったの?」


 そう言って、扉を何度もどんどんと叩く。


「何やってる? 早く扉を開けろよ!」

「そう言ったって、開かないのよ!」

「何?」


 雄馬はそう言って、樹里を扉から離れさせた。そして、雄馬は扉を開けようとする。しかし、扉は固い。


「確かに、扉は固いが、動かないわけじゃないぞ。力を掛ければ少しずつ……。」


 そう言って、雄馬がドアノブに力を掛けると、ゆっくりと開いていった。それと同時に、扉の隙間から赤い液体が広がっていく。


 それを見て、樹里は腰を抜かした。


「血!?」

「雄馬! 早く開けろ!」


 司がそう言うと、雄馬はさらに力を入れて、扉を開ける。ようやく人1人が通ることができる隙間が空いた所で、司は部屋の中を覗き込む。


「駄目だ……。」


 部屋の中には、背中を刺され、血だらけの美空の死体があった。

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