第3話Q:昼間の時間のあいさつは? A:おはよう


 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


「ーーーーじゃあ今日の授業はここまで。お前らしっかり予習しとけよ」


 七時間目のチャイムが鳴り先生が授業を終わらせた。


 授業が終わり、皆が昨日のうちに決めた部活に行くために準備をする。


 そんな僕の部活はというとーーーーゲーム部である。


 階段を登り、六階の一番西にある教室へと向かった。そしてドアに手をかける。


「おっはよう、少年! 遅いぞ」


「遅かったな」


 ドアを開くと中から二人の学生が声をかけてきた。クソダサ女………ゴホンゴホン! 個性的な服装と髪型の女の人は巫先輩、目つきのいいイケメンは蓮先輩だ。


「遅れてすいません。あと、巫先輩もう『こんにちは』です」


 僕は窓から見える夕陽に指を向けて言う。


「そうとも言うな少年!」


 そうとしか言わねぇよ……。


 僕は荷物を教室の端の方に置き、椅子に座る。そして体を乗り出した。


「で、今日は何をやるんですか?」


 そう言うと、巫先輩は目をパチパチさせてから笑い出した。


「何がおかしいんですか?」


「いや、少年はつくづくドMだなと思っただけだ。ププッt」


 笑いを堪えながら話しているが全く堪えられてないんだよな。



「ふーーーオッケイ!」


 巫先輩はしばらく笑い続けていたが、時間と共に感情は静粛になった。


「ということで少年のドM具合はおいといて、だ!」


 おい、そこ! おいとくな! 最重要課題だわそれ!


「今日は『ババ変化』をやりま〜す! はい拍手〜〜」


 パチパチパチパチパチパチ


 巫先輩がそう言うと蓮先輩が無表情で拍手をしだしたので続けて僕もすることにした。


 パチパチパチパチパチパチ


「ルールは?」


 どうせロクなルールじゃないと思いつつも僕は静かに答えを待った。


「では説明しよう!」


 巫先輩はトランプを取り出し、器用に空中でシャッフルを繰り返した。


「ルールは『ババ抜き』と同じだ。しかし、このジョーカーを含む五十四枚のカードを使う。

 ババは正真正銘ランダムに選ばれ、二ターンごとに変更される。ババを持っているものは、逐一このイヤホンでどれがババか報告されるようになっている。

 そしてババに二ターン動きが無い場合と、最終的にババを持っていたものが負けだ!」


 そう言って巫先輩は僕にイヤホンを渡してきた。見た目は完全にただのワイヤレスイヤホンだ。


「このイヤホンは超高性能AIを組み込んだもので自動でトランプの乱数を生成し、ババを変更。ババを持っているものだけに報告してくれる。

 ちなみにこのトランプにも数字ごとにチップが組み込まれていてな。これをイヤホンに付けてあるレーダーが検知することでババを持っている人に報告するというシステムになっているわけだ」


「でもこれ、トランプ全部使うから最終的に必ず揃う仕組みですよね? 二人がババをそれぞれ一枚……なんてことになった場合はどうするんですか?」


「もちろん二人とも負けだ!」


 じ・えんどの予感…………


 ふと蓮先輩に目をやると絶望していた。焦茶の髪を押さえて、視線を天井に向けながら「これが理不尽か………」と呟いている。


 だめだ、この人。


「…………」


 今少し考えてみたが負けゲーだな。ババを持っている場合、自分以外の誰かしらが持っているババを取る、または取られる必要がある。ババを持っていない場合、何も知らない状態で引くことを強いられる。


 そして一ターンごとにババが入れ替わるから…………


 完ッ全なる運ゲーじゃねーか!! 死ねこのくそったりゃぁぁぁぁぁあああああああああ!!


 僕は一瞬で心の平静を保ち、巫先輩に質問することにした。


「あの質問いいですか?」


「何だい? 少年!」


「二ターンって二周回ったらてことですよね?」


「オーイェス!」


 巫先輩はやけに流暢な英語で答える。


「この二ターンの内にババが回ってきたらイヤホンは教えてくれるんですか?」


「いいや、イヤホンが教えてくれるのはババが変わった時だけだ。途中で回ってきたものに報告はされない。残念だったな少年」


 なるほど………。


 なるようになる、そう言いたいわけですね?


 ババが変わってから報告されるんじゃ無意味だ。どっちにしろ、うん。何をしても無意味だ。


「ではそろそろ始めようか! 『ババ変化』、レッツスタート!!」


 巫先輩がそう言うと、全員が椅子へと座り向かい合った。


 巫先輩はニヤニヤ、蓮先輩はキョドキョド、僕はシクシク。


 各々が気持ちを整理してゲームが始まった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 結果、惨敗!!


「いやっほおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 喜ぶ巫先輩を片目で睨みながら、僕と蓮先輩は千円札を取り出し巫先輩へ渡した。


 巫先輩はニッコニコ顔で札を受け取り、キスをした。


 金、大好きすぎるだろ………。


「少年はやっぱり弱いなぁ!」


 巫先輩が椅子に座りツートンカラーの髪を雑にたくしあげながら言った。


「別に弱くないですよ」


 僕はムッとして言う。


「弱いんだよ」


「弱くないです」


「弱いの」


「弱くない」


「負け犬の遠吠えもそこまでいくとカッコいいな! 敗北者おっつーー!!」


 僕は「ぶっ殺したるぞ!! このクソ尼がぁぁぁぁああああ!!」というのを全力で我慢して拳を握りしめる。


「あ、そうそう。言い忘れていたが私はこう見えてボクシング経験者でな」


 巫先輩がそう言うと同時に、僕は拳を握りしめるのをやめ手を後ろに交差させ静かに口を開く。


「さすがです、先輩」


「そうだろう、そうだろう。まさか紳士な少年が私に手をあげるとは思えないが一応………な」


 巫先輩は僕の胸に拳を軽くのせながら話した。


 その日、僕は家に帰るまで生きた心地がしなかった。


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