第45話
「……や」
「ん……ん?」
「鷹宮? よかった、大丈夫か?」
「涼風、君?」
目を開けると、必死な顔で私の名前を呼ぶ涼風君がいた。
「鷹宮、ごめん鍵があいてたから勝手に家に入った。いくら返事してもかえってこないし」
「え、う、うん。あの、なんでここに?」
「来てくれって言ったのはおまえだろ。それに、呼んだら飛んでこいって言ってたじゃん」
「でも、明日は月曜日だし」
「関係あるか。てか熱すごいな。タオル、勝手に使うぞ」
涼風君は一度部屋を出ていき、少しして濡らしたタオルを持ってもどってきた。
「……あんま冷えてないけど。あと、薬も色々持ってきたから」
寝たままの私のおでこにタオルを置いて、薬箱の中をガサガサと。
そして薬を出すと、ペットボトルの水と一緒に私に差し出す。
「ちょっと体おこせるか? これ飲んで寝ろ」
「……うっ、いてて」
体を起こすと頭に鈍痛がした。
目をギュッと閉じて痛みに耐えてからまた目を開けると、心配そうな彼の顔がそこにあった。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと頭痛くて」
「ったく、いつからだ? やっぱり出かけてた時ちょっと様子変だったもんな」
「あれは……」
「まあ、疲れたのかもな。ほら、薬」
「……ありがと」
テキパキと世話をしてくれる彼の手際の良さは、普段の彼からは想像できないくらい。
弱ってるせいかもしれないけど、いつにも増して頼もしく見える。
「あー、頭痛い……」
「ほら、ヒエピタリ。これ貼ったら?」
「……なんか、手慣れてる」
こんな時にも私はヤキモチをやく。
もしかしたら、私以外の人にもこうやって看病したことあるんじゃないかなって。
昔好きだった子に、看病されたことがあるんじゃないのかって。
想像して、勝手に体を熱くする。
「なにむすっとしてんだよ」
「だって……」
「俺、小さい頃あんまり体が強くなくてさ。母さんがよく世話をしてくれたからなんとなくさ。まさか人の看病するとは思ってもなかったけど」
淡々と広げた薬箱を片付けてから、ベッドの傍に座るとようやく彼はふうっと一息ついた。
「……ごめん、今日は呼ぶなって言ってたのにね」
「体調不良は仕方ないだろ。でも、今日も親いないのか?」
「まあ、多分。いても私の様子なんか、見にこない」
「そっか。一人でも大丈夫か?」
「……」
涼風君は多分、私が寝たら帰ろうと思ってる。
明日は学校だし、そうしたいのが普通だよね。
ちょっと前までの私なら多分、ツンとした態度で「大丈夫に決まってるでしょ」なんて言ってた。
だけど、もう。
私は嘘をつかない。
「無理。一緒にいて。いてくれないと怒る」
言うと、体がまた熱くなった。
こんなわがまま、どう思われるんだろうって。
彼を見ると、なんだかきょとんとしていた。
「……なによ、その顔」
「あ、いや。なんか今日は素直だなって」
「普段捻くれてるみたいな言い方やめてよね。いたたっ……」
「ほら、目瞑れ」
「……寝たら帰ったりしない?」
「しない。朝までいるからゆっくりしてろ」
「……なんで」
なんで、そんなに優しくしてくれるの?
私は、目を閉じたまま静かに聞いた。
「なんでって。まあ、頼まれたからだけど」
「頼まれたらなんでもするの? 誰にでも?」
「……約束だから」
「え?」
「一ヶ月は、ちゃんと彼氏でいるって約束しただろ。だから、彼氏なら彼女が熱出してる時にそばにいて普通だろ」
誰かと付き合ったことないから知らないけど、と。
うっすら目を開けると照れくさそうに笑う彼の笑顔が私の心を刺激した。
同時に、またズキンと痛みが走った。
今度は胸の辺りに。
約束、ちゃんと守ろうとしてる。
やっぱりミカの言う通りなのかもしれない。
ここでちゃんと気持ちを伝えないと、彼は約束通り選挙終わりには私と……。
「あ、あのさ……」
言葉を振り絞ろうとした。
でも、何をどう伝えたらいいかわからない。
悩むほど、頭が痛くなってだんだん意識が朦朧とする。
言わないといけないのに。
寝たらダメなのに。
起きたらもう、そこに彼がいない気がするから。
「おやすみ、鷹宮」
「あ、あの……」
優しい彼の笑顔がだんだんぼやけてくる。
薬が効いてきたんだろうか。
私は、体がフワッと軽くなるような感覚に陥ってそのまま。
ゆっくり目を閉じた。
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