第41話


 結局私はミカの家にきた。

 そして彼女の家のリビングで昨日の話をしているところなんだけど、ミカはずっとクスクス笑っていた。


「ねえねえ、聞いてる? ミカってば」

「あー、聞いてる聞いてる。好きピを部屋に連れ込んだのに指一本触れてくれなくて辛たんってことでおけー?」

「全然ちがうわよ! 普通男子って女の子の家に泊まったらドキドキしたりムラムラしないのかって聞いたのよ」

「似たようなもんじゃん。で、何もしてこなかったけどそれはそれで優しいなって思ってんでしょ」 

「……まあ」 

「チョロいわねー。ま、最近惚気話ばっかで免疫ついたけど。そいや、選挙のことは何か進展あったの?」

「うーん、特には。でも、涼風君は何がなんでも私に会長になってほしいって応援はしてくれてる」 

「何がなんでも、ねえ」


 ミカは少し複雑そうな顔をした。


「どうしたの?」

「いや、私の考えすぎかもだけど。なーんか悪い方に話がいかないかなって」

「どゆこと?」

「んー。リアラが今、なんで選挙で不利な状況なのかわかる?」

「ええと、男子からの票が期待薄だから?」

「だよね。じゃあ、どうして男子からの票が期待できないかわかるよね?」

「それは……彼氏できたアピールして、男子を遠ざけたから?」

「はい正解。でもやっぱり女子の票だけじゃふあんだからその男子票をリアラにも入るようにしようとするなら、涼風君はどうすると思う?」


 ミカは試すように私に質問した。

 そして私は、ミカの中にある答えを考えた。

 男子からの好感度を全て無にした私が、もう一度男子から支持されるための方法……あっ。


「まさか」

「お、さすがに簡単だった?」

「まさか涼風君、マリアと浮気するつもりじゃ」

「……はい?」

「絶対そうだ。マリアと浮気して、マリアに彼氏を寝取られた私に同情票が入るようにって、そう考えてるんだ。殺す、絶対許さない」

「まてまてまてーい」


 立ちあがろうとした私の頭をミカはペシっとはたいた。


「な、なによ違うの?」

「全然違うわい。あー、いやいや全然じゃないかかも」

「ほら、やっぱり」

「話が飛躍しすぎなの。あのさ、マリアに乗り換えるつもりだったとしても、その前に何かしないといけないことない?」

「マリアを殺す?」

「怖いわ! んー、二股じゃないなら、あんたの言う通り涼風君がマリアと付き合うとして、あんたとはどうなるのよ」

「……え?」


 考えてもみなかった。

 私たちはそもそも、期限付きの偽りの交際だから。

 だから見落としていた。

 その選択を、先に彼がするということを。


「まさか、別れるって……」

「まあ、可能性の話だけどね。どうせ選挙終わりには自動的に消滅する関係なんだから、それなら少しでもあんたにメリットある別れ方した方が良いよねって、涼風君なら考えそうじゃない?」

「で、でもちゃんと約束したのに」

「一方的に押し付けたりはしないでしょうけど、そんな話になるかもって腹づもりはしといた方がいいわよってことよ」

「約束、したのに……」

「リアラ? おーい」

「……」


 涼風君なら、確かに考えるかもしれない。

 彼は本気で私を勝たせたいって思ってる。

 それに、どうせ別れるのなら今の方が色々と都合がいいとか、確かに思いそう。


 彼は優しいから。

 いいやつ、だから。


 ……でも。


「無理」

「リアラ、言っておくけどこれは可能性の話で」

「無理、無理無理無理! ちゃんと一ヶ月は付き合うって約束したのに! 私をフる? 絶対嫌だからそんなの! そうなるくらいなら今からマリアを殺す」

「お、落ち着きなさいよ」

「ねえミカ、私をフるなんてイコール浮気よね?」

「全然イコールじゃないと思うけど」

「だ、だって……約束破るやつなんか浮気男と一緒じゃん。結局、私と付き合ってることなんかどうでもいいってことでしょ?」

「そんなに嫌なら嫌って言えばいいでしょ。彼だって無理強いはしないわよ」

「……行ってくる」


 私は立ち上がり、そのままミカの家を出た。


 玄関まで追いかけてきてくれたミカは「変なことすんなよー」と、声をかけてくれたけど。


 私はそんなミカに何も応えることなく一目散に。


 彼の家へ向かった。


「バカじゃないのほんと……そんなの、私は認めないから」


 約束、したじゃん。

 一ヶ月はちゃんと私の彼氏をするって。

 

 約束、したよね。

 私のこと、応援するって。


 約束、したのに。

 いっぱい。

 なんで、まだ何も言われていないのに涙が出てくるんだろう。


 ただの想像なのに。

 別れるって思うと。

 前が、見えない。


「水族館、また行こうねって約束したのに……」



 

 

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