第19話


「あーもう死にたい。私死ぬ。私を殺してミカ」

「嫌よそんなの。なになに、また喧嘩? 仲良いわねえ」

「そうだけどそうじゃないの。せっかく私がデート誘ってあげたのに喜ぶどころか文句ばっかなんだもん。せっかくあの引きこもり根性を直してやろうって頑張ってあげてるのに」

「あーそうデート誘えたんだ、偉い偉い」

「もー、茶化さないで」


 涼風君の家を飛び出したあと、ミカの家に来た。

 いい加減呆れた様子で私を家にあげてくれた彼女は、それでもお茶をだしてくれて私の話を聞いてくれている。


 私のことを唯一わかってくれる。

 だから私はいつもミカのところに来てしまう。

 でも、最近のミカはちょっと変。

 私が涼風君のことを好きみたいな言い方ばかりしてくる。


「茶化してなんかないわよ。いいきっかけじゃん。羨ましい限りよ」

「そんな簡単な話じゃないって。知ってるでしょ、私は」

「お互い、ね。親のことでトラウマ抱えて殻に閉じこもってだもんね」

「うん……」

「ま、だけどそのおかげでこうして私ら仲良くなれたわけだし? そういう意味じゃ親に感謝しなきゃね」

「それとこれとは別よ。別にそうじゃなくても私はミカのこと好きだもん」

「あはは、ありがと。でもさ、私らもそろそろ変わらないと。いつまでも傷の舐め合いしてるだけじゃダメなことくらいわかるじゃん」

「そういうミカはどうなのよ」

「んー、いい男いたらね。うちの学校にはいないかな」

「ズルい」

「あはは、たしかに」


 ミカはいつになく楽しそうだ。

 いつもなら、この手の話をするとお通夜みたいになるのに。


「なんでそんな楽しそうなの?」

「だって、リアラが楽しそうなんだもん」

「私が? 話聞いてた?」

「もちろん。あの日以来さ、こんな風に誰かのことで怒ったり悲しんだり、そんなことあった? 今のあんたは結構生き生きしてるよ」

「……そっかな」


 確かに、あの日以来私の心の奥底はずっと閉ざされたままだった。

 男なんてみんなクズで、他人なんて信用するに値しないって。

 そう思って生きてきた。

 利用できるだけ利用して。

 誰にどう思われても構わないからって。


 そう思って、今日まで来たのに。


「確かに私、ムキになってたかも。なんかさ、涼風君見てると自分と重ねちゃうんだ」

「人間不信なとこ?」

「うん。それと同時にやっぱり腹も立つの。あんないい家族がいて、何不貞腐れてんのって」

「でも、不貞腐れて閉じこもってるあんたに言われたって響かないわよ。あんたがまずは変わろうとしないと」

「……わかってる」


 確かに、ちょっと言いすぎたかな。

 別に服がダサかったら、明日買えばいいわけだし。

 私なんかに急にデートに誘われたらびっくりするよね普通。

 ほんと、なにやってんだろ。


「じゃあ仲直りの印にラインでもしてみたら?」

「な、なんて送ったらいいのよ」

「んー、愛してるー♡ とか?」

「無理」

「あ、でも否定はしないんだ」

「ち、違うから!」


 しばらくミカの部屋でおしゃべりしながら、内心は涼風君からの連絡を待っていた。


 案外私のわがままに優しかったりするから、すぐに心配して連絡くれるかなって期待してたけど。

 日が暮れかけて家に帰る時になってもまだ。

 彼からは連絡がなかった。



「……明日の予定はどうなってんだ」


 いくら待っても鷹宮から連絡が来ない。

 怒ってるのか、それとも別に俺のことなんか気にしてもいないのか。


 俺から連絡した方がいいのか?

 でも、明日はデートだと言ってきたのは向こうだし。

 んー、わからん。

 

「はあ……やっぱり俺から連絡した方がいい、よな」


 投げ出さないと決めた以上、約束の期限まではちゃんと彼氏をつとめてやる。

 いくらめんどくさいわがまま女でも、だ。


 それに、ゴールデンウィークが終わった頃にはもう、こんなことで悩む心配もないんだから。


「ええと……明日は何時にどこ集合ですか、と」


 敢えて謝ったり心配したりはしなかった。

 気の利いたことなんてできないし、そんなことをしてまた怒らせても面倒だし。

 

 送ってから、しばらく待ったが返事は来ず。

 いつまでも待つわけにはいかないと先に風呂に入ってから、さっさと休むことにした。



「……え、いま何時?」


 ミカの家から帰宅してしばらく部屋でぼーっとしてる間に寝てしまっていた。


 時計を見ると深夜の〇時を回っていて、つけっぱなしのテレビは通販番組が流れていた。

 

「はあ……明日どうしよっか」


 帰ってしばらく涼風君からの連絡を待ったけど、何も連絡はなかった。

 お風呂に入って、出てすぐにラインを見たけど何も連絡はなく。

 結局何もする気が起きず寝落ちして。

 どうせあいつのことだから連絡なんて……ん?


「あ、連絡きてる?」

 

 涼風君から返事がきていた。

 慌ててラインを開くとぶっきらぼうなメッセージが一通。


「明日のデートはいつどこで? なにそれ、心配とかは?」

 

 ちょっとムカついた。

 でも、少し嬉しかった。


 デートしてくれる気、あったんだ。


 だったら素直になればいいのに。


「……明日は朝迎えに行くから。服はなんでもいいよ、と」


 デートなんて、初めてだけど。

 楽しみ……って言えるわけないか。


 私も大概素直じゃない。


 お互い様、かな。

 


 

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