第17話
「おばさま、お誕生日おめでとー」
「やだー、ありがとーリアラちゃん。これからも末長くよろしくねー」
鷹宮が帰ってきたばかりの母にケーキを披露すると、母もまた子供のように無邪気にはしゃいでいた。
俺はもちろん二人のテンションについていけず静かに見守っていたのだが、鷹宮はそんな俺をむすっとしながら睨んだ。
「ねえ、なんでそんなにつまらなさそうなの? お母さんの誕生日なんだからもっと喜びなさいよ」
「いや、俺は別に」
「ダメよそんなの。ほら、親子水入らずしてて。私は洗濯終わらせてくるから」
俺を無理矢理席に座らせてから彼女は奥に行ってしまった。
「はあ……」
「鏡、ほんとにいい子に巡り会えたわねー」
「母さんまで……。でも、別に結婚してるわけでもないんだからそのうち別れたってなっても文句言うなよ」
「ま、それはその時よ。私はあの子と気が合うし、ずっと付き合ってくれてたら嬉しいけど、それでも困ったからって私の力を借りようなんてのはだめよ。あんたはあんたで、最後まで責任をもちなさい。そしたら結果はどうあれ、悪い方には転ばないから」
「……そうだな」
こういう性格の母でよかった。
ここまで割り切ってくれているのなら、いつ俺と鷹宮が別れても大丈夫。
そんな安心感を得たところでまた、鷹宮が忙しそうに戻ってきた。
「洗濯機回しておきました」
「あら、リアラちゃんありがとう。何から何までほんと助かるわ」
「いえいえ。おばさまはこの後予定は?」
「んー、実は友達と飲みにいく予定があってね。でも気にしないでゆっくりしてってね」
母はそう言って部屋に戻っていった。
「ふう。無事にお祝いできてよかったわね」
「それはどうも。で、この後はゆっくりしていくのか?」
「なにそれ、寂しいの?」
「んなわけあるか。ただ、これ一人じゃ全部食べきれないだろ」
「まあね。じゃあ、一緒に食べてあげるわ」
この後二人で一緒に豪華な食事を楽しんだ。
しばらくは他愛もない話をしていたが、途中でふと、生徒会選挙の話を思い出した。
「あ、そういえば。結局選挙は出るのか?」
「まあ、このまま引き下がるなんて癪だし。それと、やっぱりあんたが副会長してくれるんならやってもいいかな」
「いや、だから俺は」
「マリアと私、どっちがいいか選んで。どっちも嫌なんて中途半端な答えはいらないから」
まるで俺が浮気している彼氏みたいな詰められ方に、思わず立ち上がった。
「いやいや待てよ、そんな究極の二択みたいなこと言われても」
「二択よ! マリアか私、今ここで決めなさい!」
机を叩いて俺を睨む鷹宮の気迫に押されて、俺は返事をしてしまった。
「……鷹宮だよ」
「ほんと? 今の言葉に嘘はない?」
「い、いわせておいてその言い方はないだろ。少なくとも神宮寺ではない」
「なにそれ。そんなに私と一緒にいるのが嫌なの?」
「そんなこと言ってないだろ」
「だったら」
「今日のことだって、感謝してるんだよ」
「え……」
机に並んだ食器たちを見ながら、思った。
そういえばいつも何かとやってもらってるのに、俺は感謝の一つもしたことがなかったな。
なんでこいつが神宮寺と自分を比べたがるのかはわからないが、少なくとも俺にとってその二択は簡単なものだ。
だからいちいち聞くな。
言わせるな。
俺は、言われなくてもどっちが大事かくらいわかってる。
「こんなに母さんと仲良くしてくれてるお前と神宮寺じゃ比べるまでもないだろ。それでいいか?」
「な、なによ急にかっこつけて。わ、私を選ぶのは当たり前でしょ? 今はまだ彼女なんだし」
「いや、まあそれもそうなんだけど」
「と、とりあえず食べたらさっさと片付けて。私は洗濯干さないとだから」
鷹宮は慌てて部屋を飛び出して行った。
俺は一人残されたキッチンで食器を片付けながら、鷹宮の言葉を振り返る。
今はまだ彼女なんだし、か。
そうだな、今だけなんだ。
淡い期待とか、そういう話じゃない。
何事もいつか終わりが来るというだけ。
ちゃんと弁えた上で今は、鷹宮がしてくれたことに感謝をしよう。
♡
「……なによあいつ、急にあんな風になるのズルい」
涼風君のシャツだけを風呂場で手洗いしながら、高鳴る心臓の鼓動を感じていた。
なんで、こんなに体が熱いんだろ。
彼がマリアじゃなくて私を選ぶのなんて、別に当たり前のことなのに。
「…‥生徒会、二人で一緒だったら楽しいかな」
きっと喧嘩ばっかりな気もするけど。
他の人よりはまあ、話しやすいし。
マリアにだけは負けたくないし。
勝って、涼風君と一緒に……。
「別れたあとも、ちゃんと話してくれるのかな」
私のわがままではじまったこの関係。
私のわがままで終わらせるこの関係。
私のわがままで……。
「約束、破ったらいけないのかな……」
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