第12話


「あんなやつでも、好きな子くらいはいたんだなあ」


 家に着いたあと、ぼんやり部屋に戻ってからベッドに寝そべると、なぜか涼風君の過去のことばかりが頭を巡った。


 好きかどうかわからないなんて言ってたけど。

 トラウマになるほど好きだった、ってことなのかな。

 まあ、あんな奴でも誰かを好きになることくらいあるんだろうけど。


 ……ムカつく。

 その子のことは今でもそんなに想ってるのに、私には興味すら示してこないとか。


 なんなのほんと。

 その子のほうが私より可愛いって言いたいの?

 むかつく。


「……私みたいな女は、嫌いなのかな」


 暗くなったスマホにぼんやり映る自分の顔を見つめながらため息をつく。


 嫌味や自慢ではなく、昔から私は男子によくモテた。 

 告白なんて、数えきれないほどされた。

 自分が世間一般でいう美人だという自覚くらいある。

 だから男の人はみんな私を好きだと思ってた。

 ううん、正確には私の見た目が、だ。


 どんな人間なのかとか、そんなのはどうでもいいんだって。

 可愛かったらそれでいいんだって。


 誰も、内面で人を判断なんてしないんだって。


 ずっと、そう思ってた。

 だからそんなみんなが、嫌いだった。


 けど。


「涼風君は、違うのかな」


 外見だけで人を見ていない。

 もちろん、私みたいなのがタイプじゃない可能性だってあるけど。


 彼は、違う気がする。


 だったら余計に、気になる。

 彼が好きだったって、女の子のことが。


 なんで、気になるんだろう?

 なんで……。



「というわけなのよ」

「なにがというわけよリアラ。毎日毎日呼び出して」

「えへへ、ミカだって私と喋りたかったんでしょ?」

「ほんと自己中ねあんたって。で、いよいよ恋の相談? だったら早いことキスでもして本気にさせたら?」

「な、何言ってるのよ違うわよ! ただ、好きな人ってどういう感じなのかなーって」

「意味わからん質問は却下。あ、このプレミアムチョコパフェたべたーい」


 いつものファミレスにて。

 時刻は夜の八時。

 条例で高校生がファミレスに出入りできるのは夜の九時までなのであと一時間しかない。


 せっかくミカを呼んでこのモヤモヤの正体を突き止めたかったのに、ミカは興味なさそうにメニューをみながらあくびばかり。


「ミカ、私真剣なんだけど」

「だから真剣に恋しちゃったけど今更どうすればいいかわかんないからどーしましょって話でしょ?」

「ぜ、全然違うわよ!」

「はあ……すみませーん、このプレミアムパフェくださーい」


 気だるそうに注文を済ませたミカは、頬杖をつきながら私の方を呆れたように見る。


「な、なによミカ」

「リアラ、最近あんたのこと男子たちが何て言ってるか知ってる?」

「……知らない」

「趣味悪美人だって。人の手垢のついた女なんか興味ないって。今の推しは神宮寺マリア様だーって」

「そ、そう。な、なによ思ったより作戦は順調じゃない。こ、この調子なら一ヶ月後にはみんな私のことなんて……」

「言ってる割には悲しそうね。やっぱり人気者のリアラ様に戻りたい?」

「別にそういうわけじゃない、けど」


 私の望んだ通りに進んでいる。

 だからこれでよかったはず、なんだけど。

 なんでだろう、モヤモヤする。


「あ、わかった。来月になったら涼風君と別れないといけないから辛いんだ」

「ち、違う、わよ。ていうか元々付き合ってるつもりなんてないし」

「ふーん。じゃあリアラが別れた後は私が彼を誘ってみようかなー」

「な、なんで?」

「だって、まだ喋ったこともないからどんな人か知らないけど、リアラに惚れない男子なんて珍しいじゃん。それだけで興味あるし」

「あ、あいつはただの人間不信なだけよ。全然面白くもないしやめといた方がいいわよ」

「うそうそ、冗談よ。必死にならないでって」

「……なってないし」


 ミカはケラケラ笑っていた。

 いつも私のことなんてなんでもお見通しな感じで、勝手にこうだと決めつけた話し方をするのがミカの悪いところだ。


 私が涼風君に惚れてると思ってるみたいだけど。

 それはないから。

 私があんなグズに惚れるなんて、ないもん。


「あ、そろそろ時間だ。リアラ、帰ろ」

「う、うん」


 釈然としないまま、店を出た。

 そして帰り道の途中で涼風君の家の前を通ると、またモヤモヤした気持ちが込み上げてきた。


 でも、このモヤモヤはきっと涼風君なんかに惚れてると勘違いされたことへのイライラだ。

 絶対に、今何してるのかなとかもう寝たのかなとか、なんで連絡返してこないのとか、もしかしたら女の子と電話してるからじゃないかとか、そんなことは一切考えてない。

 

「じゃあまた明日」


 私の家に着いたところでミカと別れてから、私は暗い玄関で靴を脱ぎながら。

 まだモヤモヤする気持ちを抑えようと胸に手を当てる。


 会って、今何してるのかを確かめたい。

 でも、夜道を一人で出歩くのは怖いし。

 電話は……したいけどなんで私がそんなことしないといけないんだと思うとかけれない。


 部屋に戻ってスマホを見つめながらベッドに腰掛ける。

 使い慣れた、少し固いベッド。

 彼の部屋のベッドはフカフカだった。

 今頃、あのベッドで寝てるのかな。

 ねえ、返事くらいしてよ。


「……朝、早起きして起こしに行こうかな」


 

 

 

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