第2話別れ

じいちゃんが特養から病院へ転院したのは、春だった。

お見舞いに行くと、

「じいちゃん、来たよ。元気?」

「おはんは、だいな?」

「ヒロシだよ」

「あたや、知らん」

と、じいちゃんは認知症が進んでしまい、また、目もほとんど見えなくなっていた。

粘り強く、ゲートボールをしていると伝えると、興味を示した。

「また、来るからね」

と、言って別れた。

それから、2ヶ月後の8月。

夜中、

「ヒロシ!ヒロシ!」

と、声がする。隣に住む親類が夜中起こしにきたのだ。

「ヒロシ、病院にいっど」

「何かあったんですか?」

「じさんが、けしんだち」

じいちゃんはその日の夜に亡くなったのだ。母親は既に病院に向かっていて、父親は遠距離にいたので、オジサンと2人で病院に向かうとじいちゃんは死化粧をして、着替えさせられていた。

夜中にじいちゃんが実家に運ばれてきて、葬式の準備が始まった。


あれは、ヒロシ14歳の夏の出来事だった。大好きなじいちゃんが亡くなったのだが、悲しくは無かった。寂しさが少しあった。

出棺の時、ヒロシは遺影を持って霊柩車に乗った。すると、自然と涙がこぼれた。

涙は人の心とは裏腹に突然流れ出す。じいちゃんの在宅介護の後の部屋はヒロシの勉強部屋になった。

ベッドは粗大ゴミとなったが、狭い勉強部屋に机が2つあったが、そこから机を移動させたのである。

ヒロシは趣味で熱帯魚を飼っていた。1メートル水槽1つ、60センチ水槽1つ、後は病気治療用の水槽があった。

4年間勉強に励み、大学に進学するのは未来の話し。

じいちゃんの死の悲しみは、時間と共に薄れていく。

残された者は生きなくてはいけない。いつまでも、悲しんではいられない。

14歳の夏の思い出になった。じいちゃんの死により、家計は少しずつ楽になったが、ビンボーはビンボーのままだった。


農家はお金がかかる。高校生になる頃にまたもや、災難が訪れるのだが、誰もその事には気付かなかった。

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