少年時代の夏

羽弦トリス

第1話ワーキングプアの家族

ヒロシは2人兄弟の長男。2歳年下の弟ヨシオがいる。

2人の両親は兼業農家。父親は長距離トラック運転手、母親は介護士。

日曜日は、田んぼで草取り。ヒエがよく生えるので、ヒエ抜きが主な仕事だ。

ヒロシら兄弟も手伝う。

彼らは、休みの日などに遊びに連れて行ってもらった事は無い。

じいちゃんを在宅介護していたから、遠出出来ないのだ。

休日は、農家の手伝い。

長距離トラック運転手の父親は3日に1回帰ってくる。母親は夜勤がある。

両親のいない時は、ヒロシやヨシオがじいちゃんの介護をしていた。

「じいちゃん、お風呂入ろうか?」

「……分かった。いつも、ありがとうねヒロシ」

ヒロシは、じいちゃんの服を脱がせ、風呂場に連れて行き、身体を丁寧に洗う。

湯船につけて、ちょっと目を離すと、じいちゃんは湯船で溺れていた。

だから、風呂は危険なのだが、オムツ交換しないといけないので、清潔に保た無いといけない。

褥瘡じょくそう(床ずれ)防止にもなるし。


ヒロシとヨシオの楽しみは、魚釣りだった。

遊びに連れて行ってもらえないし、貧乏だからテレビゲームなどは買って貰えないので、ニジマスを釣り、それを母親が料理の準備をせずに夜勤に入るので、バター焼きにして食べた。

じいちゃんも川魚が好きだから、ヒロシはニジマスのバター焼きの小骨を取り除いてから、食べさせた。

「じいちゃん、おいしい?」

「うん。うんまか。こん魚はどげんしたっじょ?」

「僕とヨシオと2人で釣ってきた」

その頃から、料理には自信があり、魚の下処理などは小学生からの技で、たまにうどんを打ったりしていた。


夏休みの出校日、みんな旅行に行ったりゲームしていると聞くとヒロシは羨ましかった。

みんなカッコいいスニーカーなのに、自分等は白いズックだった。

とにかく、家は働いても働いても生活が苦しい。兼業農家をしながら、在宅介護はお金が掛かる。1年の3分の1、じいちゃんは病院に入院したからだ。

左足の大動脈が詰まってしまう病気を持っていた。

じいちゃんにお金がかかるので、ヒロシ、ヨシオはグッと我慢した。


ある日、ヨシオが川に潜りモリで鯉を仕留めた事があった。

まず、調理前の鯉の姿をじいちゃんに見せると喜んだ。

それを、出刃包丁で捌いて、鯉こくにした。

頭は仕留めた人間が食べるのが習わしなので、ヨシオは美味しそうに頭を食べた。

頭は、コラーゲンがたっぷりで美味しいのだ。

もちろん、鯉こくも小学生であったヒロシが作った。

こんな、少年時代を経験すると将来役に立つ所が多い。


口の悪い同級生やお兄さんは、ヒロシとヨシオのズック姿を見て、

「お前んち、ビンボーだからな。ビンボー」

と、からかったが本人等は無視した。

こう言う人間は、強くなれる。小学生時代が終わると、じいちゃんは特別老人養護施設に入所した。

日に日に、じいちゃんは弱って行く。

それは、夏の暑い日に起こった。

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