第5話 約束は儚く

陽が沈んだ。


人のいない砂浜には光が無く、僕には都合が良かった。


月のない満点の星空と、鈍く揺らめくくらい海。


駅からゆっくりと歩いた先の波止場。


海を見渡せる特等席に座り込んで、あまりにも対照的な風景を眺める。


見ようによっては幽玄さを感じられる風景を見ながら、君について考えていた。


『生きていないとダメだよ』


『世界は美しい』


君はいつもふとした時に、そんな綺麗事を口にした。


君らしい、綺麗な言葉だと思っていた。


『生きる事が何になる』


『世界は醜い』


僕が否定の言葉を吐く度に、君は諦めたように笑った。


君があの日、僕に最期に言った言葉は。


『またね、燈紀‼︎』


いつも通り、明日を約束する言葉だった。


なのに。


『君と私は違う』


何も描いていないキャンバスのように真っ白い紙にたった一文。


僕を否定する言葉を遺して、君は逝った。


僕が君と会ったのは、あの日。


君に誘われてこの海に来たのが、最期になった。


『また明日な‼︎』


僕の返した明日を約束する言葉は、君を引き留める事ができなかったのだ。

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