第5話 約束は儚く
陽が沈んだ。
人のいない砂浜には光が無く、僕には都合が良かった。
月のない満点の星空と、鈍く揺らめく
駅からゆっくりと歩いた先の波止場。
海を見渡せる特等席に座り込んで、あまりにも対照的な風景を眺める。
見ようによっては幽玄さを感じられる風景を見ながら、君について考えていた。
『生きていないとダメだよ』
『世界は美しい』
君はいつもふとした時に、そんな綺麗事を口にした。
君らしい、綺麗な言葉だと思っていた。
『生きる事が何になる』
『世界は醜い』
僕が否定の言葉を吐く度に、君は諦めたように笑った。
君があの日、僕に最期に言った言葉は。
『またね、燈紀‼︎』
いつも通り、明日を約束する言葉だった。
なのに。
『君と私は違う』
何も描いていないキャンバスのように真っ白い紙にたった一文。
僕を否定する言葉を遺して、君は逝った。
僕が君と会ったのは、あの日。
君に誘われてこの海に来たのが、最期になった。
『また明日な‼︎』
僕の返した明日を約束する言葉は、君を引き留める事ができなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます