第4話 終点から見る景色は

狂ったラジオのノイズを遮断して、君の声を聞けるカラオケが好きだった。


成績が悪い君が僕に何度の同じところを質問してくるのは、面倒だけど楽しかった。


たった一人の教室で落書きをするだけだった放課後が、心底楽しい時間になった。


屋上から沈む陽を見送る事もなくなり、代わりに君と並んで帰り道を歩いた。


あんなに死にたかったはずなのに、その願望すらも不思議と無くなった。


君が手を引いてくれるなら、僕は大丈夫だと思えた。


僕はヒトになれると思った。


君を描いたものは落書きではなくなって、君はそれを見て笑顔を浮かべた。


「花が開くような」


「太陽のような」


そんなありふれた言葉では表せないような、美しい笑みだった。


陽が沈む直前の夕陽が放つ、燃えるような光に照らされて笑みを浮かべる君は。


本当に綺麗だった。


そろそろ陽が沈む。


あの時と同じ時間なはずなのにね。


ビル街に沈む夕陽より、水平線に沈む夕陽のほうがずっと綺麗なはずなのに。


君がいないだけで、僕の目に映る世界はこんなにも汚い。


終点の駅に着いて、駅のホームに降りた僕は薄く笑った。


頬を伝う水には、ぽたりと落ちた水滴には気がつかないふりをして。


電源を切った事で沈黙しているスマホを見下ろしてから、歩みを進めた。


嗚呼、もうすぐ君に会いに行ける。

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