第2話 それはまるで絵画のよう
あの日、君に手を引かれて向かった駅に着き、握り締めていたわずかな硬貨で切符を買う。
機械に硬貨が入り込む、チャリンという音が妙に耳に残った。
手に握っていた全ての硬貨が、薄っぺらい紙切れに変わった。
本当の、片道切符だったけど。
それだけで、僕には十分だった。
ゴトン、ガタン、ガタン、ゴトン、ガタン……。
廃線間近のローカル線の四人席。
以前は君と二人で向かい合って座ったその席に、たった一人で座る。
陽が差す手に温かさはなく。
他の乗客は誰もいない。
僕のことを止める人間は、誰もいない。
それは嬉しいようで、虚しかった。
君がいたら、止められただろう事がわかるから。
些細な事が、君がいないことを僕に嫌というほど実感させた。
頬杖を突いて窓の外を覗けば、白い砂浜と青い海、緑の松が広がっている。
君と一緒に見た、綺麗な風景。
一緒にすごい、綺麗‼︎と喜んだ風景だったのに。
今の僕にはまるで上っ面だけをなぞった絵画のように思えた。
何も心が動かない。
嗚呼、いや。
それは景色のせいではないか。
あの日。
あの日から僕は微睡の中にいた。
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