第20話

 テレビがついていて、私は落ち着かなくちょいちょいキッチンの方をちらりと見やっては、

「何か手伝おうか」

 言ってみるものの

「ううん、大丈夫よ」

 祥子は笑んだような口調で答えた。時折氷のなるタンブラーで麦茶を飲みながら調理を進めていた。

 夕飯が出来上がるまでそれほど待ちはしなかった。ご飯、冷しゃぶサラダ、ハムカツ、和え物と言うメニューで、ハムカツはさすがにお惣菜で購入したものだが、他は祥子が作ったものだった。味噌汁がないのは

「暑いと思って。要りました?」

 と言う理由らしかった。昼に作って冷蔵庫で冷やしておくと言う手もあろうが、その思い付きはなかったようで、申し訳なさそうだった。

「いや、確かに暑いからな。今日はいいよ。麦茶にでもしよう」

 慰めるわけではないが、非が祥子にないようにフォローした。

「なんだか、昼もそうだけど、落ち着いて食べるのが久しぶりな気がする」

 食べ始めてすぐに私はそんなことを言っていた。ハムカツを食んでご飯を頬張る。何度も噛んでから麦茶を飲んだ。

「そうね。忙しかったから。ゆっくり食べましょうよ」

「そうだな」

 祥子は少しずつ少しずつ箸にとっているから口の容量に余裕があるのだろう。私に比べて咀嚼の時間が短かった。

 私はこんな穏やかな時間がこんなにも早く訪れるとは思ってもいなかった。とても感傷的な気分にもなりかねなかった。父の不在についてではない。父がいないても家族といられることについてだった。テレビのニュースが流れる中、二人は静かに夕食を進めた。

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