第19話
「祥子、買い物に行くか?」
介護ベッドを引き取ってもらって三十分も経ってなかったろう、私がそんな誘いをすると、祥子は驚いた様子で
「お昼寝はいいの?」
答えの代わりにそんなことを聞いた。
「ああ、なんだか眠い気もするんだけど、寝れそうにないから」
「あなたが平気なら夕飯の材料を見に行きたいけれど」
「ああ、いいよ。それじゃあ行こうか」
祥子は少し心配そうな表情をしていた。私の受け答えに力がなかったせいだろうか。自分ではそんな気はしないのだが、祥子はそう受け取ったのかもしれない。けれどじっとしているのも落ち着かないと言うのも正直な気持ちだった。二人で十五分ほどかかるスーパーへ自動車を走らせた。
スーパーで私はカゴをもって祥子の後に続いた。ゆっくりとした歩調になる。私一人だけの買い物だとしたら速足でさっさと終わらせてしまうだろうが、祥子はじっくりと商品を見定めるのでどうしても時間がかかる。けれど今はそれが気分に合っていた。祥子は行きつ戻りつ見比べながら商品をカゴに入れていった。
「何か欲しいものあったら言ってね」
「いや、特にはないけど、思いついたら、そうするよ」
にぎわうスーパーでも、強いて大きな声をするようなこともなく、祥子は小さな声だった。視線は相変わらず商品に向けられていたが、私の意向も聞いてくれたことが嬉しくもあった。
「私は十分見たけれど、あなたは?」
「ああ、大丈夫だ」
一通り各コーナーを巡って、あとは私の希望だけだったが、私には欲しいものはなかった。そのままレジに進んで、その金額は高くついたとは思わなかったが、二人分としては何日分なのだろうという額だった。
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