第18話
午後一で介護用品レンタルの業者に電話をかけると、
「それならすぐに出れますので」
と二十分もかからずにやって来た。父がいた寝室へ案内するとスタッフ二人は手慣れた様子で介護用ベッドを解体し始めた。マットレスをまず運び出してから、見る見るうちに立体的だったそれは部品に小分けにされて運び出されていった。六畳を占めていた構造物がなくなった部屋の広々とした感じ。最後の部品を運ぶスタッフの後について玄関まで行った。
「あなた、これ」
祥子が冷蔵庫から小さなお茶のペットボトルを出して来ていた。自動車から玄関に戻って来たスタッフと、靴を履き、振り返ったスタッフに、
「お茶も出さないですいません。これ空き時間にでも飲んでください」
とペットボトルを渡した。スタッフたちは恐縮そうにそれを受け取ってから、
「長いことご利用いただきありがとうございます。この度はご愁傷さまでした」
と深く礼をしてきた。
「こちらこそお世話になりました」
私も礼をした。祥子も黙って礼をした。
スタッフたちが出て行ってから、祥子と二人並んで父がいた寝室を眺めてみた。残暑のせいか寒々とした、と言う表現は当てはまらないが、落ち着かない広さに見えた。
「あなた、大丈夫?」
虚ろにでもなっていただろうか。祥子は心配そうな表情をしていた。
「なんかあっという間だったなとは思ってな」
私はため息ともつかない力の入っていない返事をしたと思う。目頭をティシャツの袖で拭ったのは泣いたせいではなかった。汗が流れたのを感じたからだった。
「リビング、戻りましょう」
祥子に背中を押されて私は後ろ髪を引かれる気も起こる間もなく、リビングへ足を進めた。
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