第11話

 翌朝は設定しているアラームよりもずいぶん早く目が覚めてしまった。仏間に入って、線香をつけた。父の顔を覗く。やはり死に顔だった。

 顔を洗って歯を磨いて、カフェラテを一杯飲んで、テレビをつけた。七時になるところだった。私は落ち着きなく、ショルダーバッグを担ぐとキーをもって玄関を出た。自動車に乗り込みエンジンをかけ出発。向かったのはコンビニだった。お膳用に煮物でもないかと思ったが、その時にはなく、煮豆と漬物を買って帰った。

「おはよう。どこ行っていたの?」

 祥子が起きていて、買ったそれらを冷蔵庫に入れて、代わりにアイスコーヒーをタンブラーに注ぎながら、

「コンビニに。お膳に供えられそうなものをちょっとな」

 早口に答え冷蔵庫にペットボトルを戻した。

「気が逸るのもわかるけど、休む時は休まないと持たないわよ」

「ああ、わかってる。目が覚めただけだ。時間を持て余し立っていうか、それだけだから」

「そう」

 祥子は咎めるようすはなく、案じるように告げ私がやはり早口に説明すると、それ以上は差しはさまないようにしてくれた。代わりと言っては何だが

「祥子、朝食はパンにする」

 と言った。

「ええ、バターロールしかないけど、いいかしら」

「ああ、十分」

「ハムでも挟む?」

「そうだな。そうしてくれるか」

「わかったわ」

 祥子が準備を整えてくれたマヨネーズを塗ってハムを挟んだバターロールと牛乳と言う朝食だけでお腹が膨れてしまった。「もういいの?」と言いたげな祥子に、

「俺のことは良いから、祥子は気にせず食べていいから」

 と告げた。

 朝食の片づけを終え、ほんの少しの息を吐くと、九時前に姪がもう来てくれた。

「おはよう、にいさん。寝れた?」

「おはよう。一応な」

 朝からはきはきと高い声だった。

「旦那と子供は?」

「言ってあるから、後から来るって」

「そうか」

 姪の旦那には一仕事してもらわなければならない。神棚の戸を閉じて半紙をその上から張ってもらわなければならない。父が亡くなっているから私や、直の孫にあたる姪がやるわけにはいかなかったのだ。

 朝一の便で姉兄が戻って来た。姉は同市にいるのだが出張で離れていたため昨日は戻って来られなかったのだ。兄の一家は実家から離れている。車を飛ばしてこれるという距離でもないから仕方なかった

 帰って早々お茶を飲んでのんびりなんてしている間もなく、姉は姪と死亡届を出しに市役所へ出かけ、兄と私は玄関の掃除をしたり、フロアをお掃除シートで拭き掃除したりした。その間お寺に何度か電話をしたがつながらなかった。市役所へ行った姪からLINEが入り、火葬は翌日の午後を押さえることができたと告げられた。これでまだつながらないお寺さんにその翌日に葬儀をお願いすることができる。

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