第四章 "柳ケ瀬風雅商店街復活祭第一弾”
第41話 二人は...お知りあいなの?
キキキキキキィィィィィィ!!バタン!!ガチャガチャガチャ!!ガラガラガラガラ~!!
タコマンボウの扉の前で、自転車の急ブレーキ音が鋭く響き渡った。柴さんは急な呼び出しにも関わらず、驚くほどの速さで駆けつけてくれた。そして、勢いよく扉が開けられた。
柴さん...慌て過ぎだって...急いできてくれたのは嬉しいけど、もし転んで怪我でもしたら真由美さんから叱られるよ?心の中で、嬉しさと少しの呆れを込めて、そう呟いた。
”タコマンボウ”は元々、友三爺さんの時代から続く情緒あふれるお店。元々は、友三爺さんが気兼ねなく外で飲めるようにと、延命族の者たち、特に岩ちゃんが発起人となって始めた居酒屋らしい。
引き戸の磨りガラス越しに見える年季の入った
「この暖簾に文字を書き込んだのは誰なんだろう?」と、常連客の間で話題になったことがある。
岩ちゃんに聞いたら、「俺が心の底から尊敬してる人に、「開店記念に何が欲しいか?」と尋ねられたんだ。その時に、「暖簾に”タコマンボウ”って書いてもらえないか?」と頼んだんだ!」って教えてくれた。
その人は字を書くのが苦手だったみたいで、最初は渋ってたけど、何度もお願いしてやっと書いてもらえたらしい。
今なら誰が暖簾に命を吹き込んだか、聞かなくても分かる。そう...あの人だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
”タコマンボウ”は、余計な装飾のない無骨な店構えが特徴だ。暖簾をくぐると、大きなコの字型のカウンターと4人がけのテーブルが6つ、さらに座敷が4つあって、広々とした店内が広がってる。
壁に貼られたメニュー、古びた天井、梁や柱、木目が浮き出た扉など、どれも歴史を感じさせる。「とりあえず生で!」ってつい言いたくなる、まさに”THE 大衆居酒屋”って感じの内観だ。
タコマンボウの扉が勢いよく開いて、柴さんが入ってきた。荒い息を整えながら俺の顔を見るなり、「太郎!電話で言ったことは本当か?あの旨い魚が手に入ったって!」と興奮気味に聞いてきた。
そして柴さんは、「それに、本当にこの寂れた商店街のイベントにSMRが協力してくれるのか?それなら鬼に金棒じゃないか!昔、商社で働いてた頃に何度かSMRと取引したことがあるけど、彼らは本当に優秀だ。これはすごいことになるぞ!」と、さらに熱を帯びて話し続けた。
自分が会長を務める商店街の事を”寂れた”って...。まあ、事実だしな。しかし、だからこそ何とかしたい!という強い意気込みがひしひしと伝わってくる。柴さんの言葉には、商店街を再生させたいという強い決意と情熱が感じられる。
元商社マンで相当なやり手だった柴さんは、今や商店街の復興を誰よりも願う会長さん。だから、待ちに待った魚が手に入ったと聞いて、居ても立っても居られず、
その情熱が、慌てて駆けつけた行動に如実に表れている。興奮が冷めやらない様子だ。
そんな柴さんは、元の姿に戻った岩ちゃんに「岩ちゃん、とりあえず生だ!キンキンのやつを頼むよ、岩ちゃん!それから、太郎の持って来てくれた特別な魚を使って、刺身盛り合わせをこのテーブルにいる人数分出してくれ!俺の奢りだ!」と上機嫌に伝えた。
柴さんは、俺と一緒にいるユリーとカーシャに目を向けて、フランクに話しかけた。
「誰なんだい?外国の方か?日本語は話せるのかい?もし話せなかったら、俺が通訳しようか?Good evening?Bonne soirée?Добрый вечер?God afton?」
すげえな元商社マン。何か国語話せるんだ?
でも、そうだよな。見た目からして、カーシャもユリーも見た目は北欧系だもんな。柴さんは英語、スウェーデン語、ロシア語、フランス語と、いろんな言葉で話しかけてたらしい。まあ、カーシャにも俺が日本語を分かるように、俺特製の”なんちゃって魔法”をかけておいたから、普通に話してもらえばいいんだけど。
そんな柴さんはふとユリーを見て、「ユリー...さんか⁉ ユリー・ファルヴェリゲ ブラデさんか?」と驚いた表情でユリー―に目を向けた。
何?二人は...お知りあいなの?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いやー驚いた!まさかもう一度ユリーさんと仕事ができるなんて!」と、さらに柴さんは上機嫌になった。カーシャにはオレンジフラッペを頼んでくれた。何でも食べるなカーシャ...。すごくニコニコして、オレンジフラッペを頬張っている。こんなに食いしん坊キャラだったけ?
話を柴さんに戻すけど、商社に勤めていた頃、柴さんはSMRとよく取引していたらしい。その時偶然にも、ユリーがSMRの担当だったらしい。
「あれから20年以上経っているっていうのに、ユリーさんはあの頃と変わらずに美しいまんまだな!」と柴さんは驚いた表情でユリー―に話かけた。
まあ、延命族だからね...。幻影の指輪もはめてますからね...。
「ふふふふ、柴さんも魅力的な所は少しも変わっていませんよ。私も柴さんとなら仕事がしやすいです。何と言っても話しやすいですから」とユリー―は笑った。
「はははは。ユリーさんにお世辞でもそう言われると嬉しいもんだよ」と柴さんは表情を緩めてユリーを見つめた。
まあ、柴さんとユリーは、ユリーがトヨさんの姿で、3日に一度ぐらい一緒にモーニングに行っているらしい。ユリーの姿では久しぶりだと思うが。
柴さん...あんまり鼻の下を伸ばしていると、奥さん、真由美さんに通報しちゃうぞ...。
あと、柴さんはカーシャに向かって「こちらの可愛らしいお嬢さんは?」と聞いてきたので、カーシャはトヨさんの遠い親戚で、語学留学のために日本に来たことにした。
カーシャの紹介が終わったと同時に、岩ちゃんが「はいよ!柴さんが注文した、太郎が持って来てくれた魚で作った刺身の盛り合わせだ!食べておくれ!」と言って、大皿に盛られた刺身をテーブルに置いた。
その色鮮やかな刺身を見て、カーシャが「すごくきれい!!」と叫んだ。
ま、まだ食べるのカーシャ?
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