第40話 延命族の思い
「サーマレント産の鉱物は、地球ではレアメタルとして扱われ、多くの国がその入手を望んでいます。他企業との関係構築にも最適です。次回のサーマレント訪問時には、ぜひ鉱物を持ち帰って来て下さい!」
その後、ユリーは”モーヅアルド”の採掘場を紹介してくれた。ここでは金や銀、ミスリルの採掘量が少なく、友三爺さんもあまり訪れなかったようだ。友三爺さんはこれらの鉱物が豊富に採掘される”ベントウベン”で主に活動していたらしい。
「友三様があまり関心を寄せなかった”モーヅアルド”ですが、後の調査により”レニウム”や”パラジウム”などの貴重な鉱物が豊富に存在することが明らかになりました。これらの鉱物は地球上ではレアメタルとして高く評価され、多くの国々がその確保を切望しています!ぜひともご協力をお願いします!」
ユリーはまるで新しいバッグをねだる昔の恋人、”由香”を思い出させるような力強さで訴えてきた。大学時代の黒歴史だけどね...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ユリーが落ち着きを取り戻してから詳しく話を聞いてみると、”レニウム”は航空機のタービンブレードや石油精製触媒など、非常に高温での使用が求められる用途に使用されるため、その需要が非常に高いことがわかった。
また、”レニウム”は地殻中の存在量が1 ppb(10億分の1)程度と極めて希少な金属であり、産出国もチリなど特定の国に偏っているため、その価値は非常に高い。
10億分の1って、考えられないぐらい貴重なモノなんだな。
そんな地球上では非常に希少なレアメタルが、サーマレントの”モーヅアルド”では豊富に採掘されるというのだから驚きだ。
「さらに、友三様が頻繁に発掘に向かわれた”ベントウベン”について、気になることが一つあります。友三様たちがベンドウベンの最下層に向かおうとされた際、友三様の母国語で”これ以上進むには、鍵が必要”と刻まれた石碑のある扉に遭遇されたそうです。バロンとエメリアから聞いた話によると、その扉の前で友三様は「そうか...」と呟かれたきり、何も言わずに引き返されたとのことです」
ユリーは一息ついてから、石ちゃん特製のレアチーズケーキを一口味わった。
”タコマンボウ”の名物の一つは居酒屋でありながらも、そこら辺のスイーツ店を凌ぐほど評判のレアチーズケーキだ。わざわざ遠方から買いに来る人もいる。
実は、このレアチーズケーキは”遺伝子改良”を重ねた鶏の卵から作られており、その卵の味わいは地球のモノとは一線を画している。
さて、本題に戻らないと。また話が脱線してしまった。悪い癖だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ユリーは俺の目を見つめながら語った。「肝心のカギですが、友三様がサーマレントに行けなくなった翌日の早朝、枕元に置かれていたそうです。まるで友三様の後継者に託すかのように...」と言った。
どういう事だろう?扉を開けて俺がその奥に進めてと言う事かな?何が待っているんだろう?緊張と興奮が交錯するような不思議な気分だな。
「ただ、今のところは行けないと思います。友三様が亡くなられた後、そのカギはなぜか、友三様とともに消えてしまいましたから」とユリーは付け加えた。
ユリーはサーマレント産の葡萄酒を一口含み、「その時が来たら、また三代目の枕元にでも、カギが現れるのかもしれませんね」と、知的な微笑みを浮かべた。
はぁ、大人の魅力が漂う美しいエルフ。目の前にいるこの美しいエルフが、今までずっと一緒に仕事をしていたトヨさんだとは信じがたい。それから、もう一人の美しい少女はというと...。
「わあ!このラーメン、本当に”まいるぅ~”です!!岩様の言う通り、さっぱりとした中にも濃厚なスープとちぢれ麺の極上の絡み合い!!この感動は”バランとエメリア、二人の愛の大全集”の第16巻の”愛しき貴方”を連想させます!!」と頬をほんのりと赤らめながら叫んだ後、チュルチュルチュル~とラーメンをすすった。
いつの間にか、箸の操作を習得している...。恐ろしい順応能力...。
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その後も、トヨさん改めユリーから多くの話を聞いた。彼女が"根津精肉店"や"柳ケ瀬風雅商店街"を支援するために、商社SMR Holdingsを立ち上げてから今までの事を。
大変な道のりだっただろう。友三爺さんに恩義があるとはいえ、代替わりした今、そこまで尽力してもらって良いのだろうか?友三爺さんに従ってきた者たちも、もっと自分らしい生活を楽しんで欲しいと思う。
サーマレントには現時点では戻れないが、”おばさん”の姿に半ば強制的に変え、精肉店を支えることに対して罪の意識を感じる。
「ユリー。俺は確かに友三爺さんの孫だ。でも...ここまでお世話になっていいの?友三爺さんが残したお店を引き継いだとはいえ、何だか非常に申し訳なくて...」
今の気持ちを正直にユリーに伝えてみた。友三爺さんに命を救われたかどうかは知らないが、爺さんはもうずっと前に亡くなっている。もう十分ではないだろうか。30年以上も"根津精肉店"支えてもらっているのだから。
「それに、SMRは危険な選択をしていると思う。サーマレント産の肉を売るために産地偽装の牧場を作り、魚を販売するために漁協と手を結ぶなど、明らかに法に触れる行為だ。それよりも、レアメタルなどの資源の販売に専念した方が、安全で確実な収益が得られると思うが...」
隣で”鮭おにぎり”を美味しそうに食べていたカーシャも、心配そうに俺の顔を見つめている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな俺とカーシャをよそに、ユリーは少し微笑みを浮かべながら、「危険が迫ったら、SMRは解散します。働いてくれた社員に報酬を分配し、私たちは幻影の指輪の力で別人となり、どこかに身を隠します。そして、新たな場所で”根津精肉店”を三代目と君江様と共に、一から立ち上げるつもりです」ときっぱりと言った。
ユリーの言葉に驚いた。ユリーは世界規模のSMRを潰すことに、何の未練もないようだった。
さらに岩ちゃんも、「俺も新しい"根津精肉店"の近くで、”タコマンボウ”を開店させるだけさ」と言った。すごく当たり前のように...。
「SMRを立ち上げた私たちは、サーマレントで育ったエルフやドワーフ、獣人です。地球上での出世や名誉などには全く興味が無く、会社に対する未練やこだわりもありません」
こだわりがない...。あんな一流企業を潰すことに...。
「私たちのこだわりは、この"根津精肉店"を無くさない事、次世代に友三様の思いを残すことです」
世界的規模の”SMR”よりも、さびれた商店街にひっそりと佇む"根津精肉店"の方が大事...。
「私たちは自分たちの意思で動いています。それほどまでに友三様にはお世話になりました。あのお方がいなければ、私たちは今でも過酷な労働を強いられているか、慰みものとして生き続けるか、あるいは...殺されていたでしょう」
ユリー...。
「延命族はその名の通り長く生き続けます。ある意味、すぐには死にません。いえ、死ねません。辛い時間は人族の何倍も苦しみ、苦しんで苦しんで死にます。それを救ってくれた喜びは、人族のあなたが感じる何十倍、いえ、何百倍も深いのです。ですから私たちは、私たちの思いで動いています。変な気を使ってもらわなくて結構です」
ユリーはそう断言すると、にこやかにほほ笑んだ、そして...。
「さあ、三代目、それにカーシャさん!未来の話をしましょう!暗い話はこれでおしまいです!」そう言って、ユリーはエリーから託されたサーマレント産の葡萄酒を美味しそうに口に含んだ。
まるで何かを懐かしむかのように。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
本人の意思も確認できたし、これから先も"根津精肉店"を盛り立てくれるようだ。
そうと分かれば、ユリーさんとSMRと共に全力を尽くそう。
”最強の精肉店に...俺たちはなる!”ちょっと意味不明かもしれないけど...。
そして、
さて、商店街全体の活気を取り戻すために、具体的なプランを立てる必要があるな。開催日時や内容を決めるために、今ここにいるメンバーと柴さんも呼んで、「柳ケ瀬風雅商店街復活祭第一弾」を計画しよう!
第三章...完
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